『星の王子さま』
演出・出演・振付 森山開次さん インタビュー

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース、森山開次 演出・振付・出演による大型ダンス作品『星の王子さま』が12月、京都芸術劇場 春秋座で上演されます。多彩なクリエーター、精鋭のダンサーとともに上演されるこの企画。森山開次さんに作品への思い、各ダンサーの魅力など、お話を伺いました。

 

子供も楽しめる、大人に向けてしっかりと作る作品
前回、KAATで作らせていただいた舞台『不思議の国のアリス』は、子供やファミリー向けのプログラムでしたが、今回新しい舞台を作るにあたり、芸術監督の白井晃さんと打ち合わせをした時に、今度は大人たちに向けた作品を作ってほしいというお話をいただきました。

今まで新国立劇場をはじめ、子供の作品を多く作ってきて子供向けの作品を作ることについて、それはそれで嬉しかったのですが、大人に向けた作品の企画をいただけたのが嬉しかったんです。

とはいえ、やはり子供にも楽しんでもらえるものにしたい。それにはどんな作品があるのかなと考えて『星の王子さま』を選びました。子供たちに向けた作品と、大人に向けた作品は同じベクトルのようでありながら、もう一歩先のチャレンジになると思いますので、課題を高くしてやっていける題材だと思います。

 

『星の王子さま』への思い
実は、僕は『星の王子さま』に縁があるんです。かつてミュージカルを上演する音楽座に所属していた時、その劇団が『星の王子さま』を上演しました。当時、僕は研究生だったので出演はしていませんが、稽古の時から観ていたので作品の面白さは知っていたんですね。その時、蛇役をH・アール・カオスの白河直子さんがされていたのですが、その蛇の姿を今でも鮮明に覚えています。ミュージカル以外で創作舞踊をする人がいると知ったきっかけが白河さんでした。憧れを持ちましたし、自分自身に影響を与えた役、と言っていいと思います。

その後、白井晃さんが新国立劇場で宮崎あおいさんを主役に上演した『星の王子さま』に蛇役で出演させていただきました(テアトル・ミュージカル『星の王子さまLe Pettit Prince』)。この作品で夢がかなった訳ですけれども、白河さんの蛇にはない自分らしい蛇を作りたいと思い、演出の白井さんや振付の近藤良平さんと共に新しい蛇像に挑戦しました。踊りながら言葉を発した事も思い出になっています。ですから、この物語に関わる度に、もし自分が演出するならどんな風にやるだろうかと思い描いていたものが頭の片隅に残っていたんです。

 

物語の核をお届けしたい
今回、副題を「サン=テグジュペリからの手紙」と付けたのですが、ただストーリーを追うのではなく、物語の核の部分をサン=テグジュペリからの手紙としてお届けしたいと思っています。

この本の解釈については、様々な本が出ていますし色々な考え方があると思いますが、僕はサン=テグジュペリとはどういう人だったのか、パイロットであり『夜間飛行』や『人間の土地』などの飛行体験を元にした小説も書いていた彼が、どういった経緯でこの『星の王子さま』を書いたのかに興味がありますし、彼の人生はすごいなって思うんですね。

白井さんと話している中で「鳥瞰(ちょうかん)する」という言葉が出てきたのですが、空から俯瞰し、鳥の目線で彼が見ていた地球は、僕達のように地上から見ているのとは全く違う世界が見えていたと思うんです。そうやって鳥瞰して見た視点が『星の王子さま』にも表れているのかなと思っています。今回はサン=テグジュペリの妻である、コンスエロを登場させるのですが、物語のひとつ外枠を取り込むことで、より彼が感じていたことを表現できるのではないかなとも考えています。

ただ普通に物語のストーリーだけを追っていくのではなく、もう一段階先へ行った表現をすることに意味があるだろうし、そこに創作する価値があるのかなと思っています。ですから、この部分に挑戦していきたいと思っています。

 

 美しい言葉、心に刺さる言葉を、身体表現で綴り直す
企画書に「『星の王子さま』に散りばめられた美しい言葉、心に刺さる言葉を、身体表現で綴り直したい」と書いたのですが、言葉が大切なこの作品を身体表現に置き換えて届けたいと思っているんです。自分でもよくもまあ言ったものだなと思うのですが(笑)、これも挑戦だと思っています。

ですが、本の中にちりばめられている、例えば「大切なものは目に見えない」などといった言葉を、セリフではなくダンス(身体表現)にすることで感覚的に訴えることができ、ひょっとしたら言葉の核心を突いていけるのではないかなという強い思いがあります。

 

個性豊かなアーティストたちによる舞台
僕は一緒にクリエーションしたいという人については割と幅広く考えているのですが、その中でも魅力を感じるのは「ダンスが好きで好きでしょうがない」という思いを持っているかどうか。ダンサーはみんなダンスが好きだろうけれど、「好きで好きでしょうがない。だからここに居るんだ」と突き抜けている人がいいですね。そういう人なら色々なことを乗り越えていけるし、そうでなければ伝わらないかなと思います。だから「あ、ダンスが好きなんだな」と思える人と一緒にクリエーションしたいですね。

ダンサーたちはそれぞれ、色々な個性やクセがあって、繊細な扱いが必要だったり、なかなかいうことを聞かなかったりとか(笑)いろいろありますが、この世界はみんなそんな人ばかりなので、それは判断の基準にならないですね。それより「どんなことがあってもダンスが好きだ」というのがあるか、それだけです。ですから今回は僕が一緒にやりたい人をキャスティングしています。新しい今回のカンパニーならではの『星の王子さま』を見つけることができたのがとても嬉しいです。

バックグラウンドの違うダンサーを集め、作品として仕上げていく時に稽古の現場で大事にしているのは、距離感をどうとるかですね。一定の距離ではなく、いろいろな距離を保ちながら導いていくことを大事にしています。こういう動きがほしい、こういうシーンが作りたい、僕のイメージはこうなんだと無理にでももって行くやり方もあるとは思いますが、こういった個性豊かなメンバーはそれぞれ経験やバックグラウンドが豊富なので、そういった経験から引き出される個性を生かしていきたいですし、それを積み上げていくことで個々のモチベーションを上げていきたい。個性豊かなメンバーですので、何もしなければバラバラになってしまいますし、そこは「こっちに行きたいんだ!」と確固とした思いを持っている事も大事。その両方が大事なのかなと思っています。

魅力的な出演者に加えて、日比野克彦さん(美術)、ひびのこづえさん(衣裳)、阿部海太郎さん(音楽)と強力なスタッフとの作業でどのような舞台が立ち上がるか楽しみにしています。ぜひ劇場にお越しください!

 

★魅力的な出演者たち★

森山開次さんから各出演者の魅力について、お話いただきました。

アオイヤマダ

初めてお会いしたので、全てを知っている訳ではないのですが、あきらかに新人類ですよね(笑)。新人類って言葉が古い(笑)。僕達も少し前までは新人類といわれていたのにね。だから僕も年をとったなと思うのですが…。
でも、彼女の活動ぶりや姿を見ると、あぁ新しい時代がきたなと思います。今回、僕のわからない部分をもっている未知の存在(の人)とやりたかったので、そういう意味ではとても未知な存在です。
僕が知る範囲での彼女の魅力は枠にとらわれていないところ。プロフィールに自分のことを「踊る人」と書いていますが、僕もかつて自分の名刺に「踊る人」と入れたことがあって。僕もNHKの『トップランナー』に出た時、「踊る人」と紹介していただいたことがあります。その時、アオイさんほど若くはなかったけれど、まだ若くてジャンルや縛りにとらわれずに色々なことに挑戦していきたいというのがありました。彼女もそういう気持ちを持っているんだろうなと感じています。
ジャンルにとらわれず、どう自分の表現を開いていくか。自分の住む場所を決めない、所属する場所を持たない、私は私の表現で勝負するという潔さがある。なかなかできることではないですよね。それを持っているところが僕にとって最大の魅力です。
そして彼女は、とても女性的な魅力もあるけれど、どこか中性的なところもあって、良い意味でわがままそうですよね。やはり『星の王子さま』の王子様は、物分かりのよい大人では困りますから。自分はこうしたい! というのがあって、それができなかったら、わ~んって泣きじゃくるような感情や感性を持っている人であってほしいと思っていて、そういう自由な感性を持っている方だと思います。

 

坂本美雨
彼女とは昔から接点があったのでダンスが好きなのもよく知っていましたし、なにより体にスッと入ってくる彼女の透明感のある歌声が好きです。最初に歌声を聞いた時「何だ、この声は!」と思いました。
僕は以前、好運にも東京のPARCO劇場で翻訳家・演出家の青井陽治さんがされていた2人で朗読をする『ラヴ・レターズ』シリーズに出演させていただいたことがあるのですが、その時ご一緒したのが坂本美雨さんでした。手紙のやりとりをする朗読劇で、感極まって泣いてしまったりと感情をダイレクトに表現できる人で、そこにハッとさせられた思い出があります。
今回、キャスティングをする時に、昔、美雨さんが「実感の伴うファンタジーをやりたい」と言ったことを思い出したんです。それは僕が彼女から聞いた言葉の中ですごく印象に残っていることです。本来、舞台は実態の伴うファンタジーのはず。だからもっと実感を伴うように届けていかないといけない。そこがテレビドラマやアニメと違った魅力だなと思うのですが、そういう話をしたことを思い出しました。
『星の王子さま』はファンタジーだけれど、サン=テグジュペリの強い実感があって生まれてきた作品だと捉えた時、言葉の外側だけを捉えて分かりやすいストーリーだけで作品を作ってしまうと、おそらくサン=テグジュペリのことをきちんと表現できないのではないかと思うんです。ですから今回、自分のもう一つのテーマとして「実感の伴うファンタジー」をやりたいと思っています。彼女には身体の言葉として擬音や言霊(ことだま)、響きを声で表現していただきたいと思います。ダンスは音楽と一緒に届けるものですから、彼女の発する音の重みや存在感で、さらにダンサーの身体を実感の持てるものにしてくれると信じています。

 

酒井はな
昨年(2019年2月)、東京のセルリアンタワー能楽堂で「伝統と創造シリーズ vol.10 HANAGO-花子-」という、僕の演出した作品に出演いただきました。ご一緒するのはその時が初めてだったと思います。このシリーズは伝統的なものと舞踊をミックスし新しいものを生み出そうという企画なのですが、やはり彼女は素晴らしかった。日本を代表する、誇るべきバレリーナだと思っています。若いバレリーナが沢山出てきている中で、存在感と表現力は群を抜いていると思います。なんて豊かな表現をするのだろうと見とれてしまいます。もう彼女の一ファンですね。すごく尊敬しています。ですから、また一緒にやれるのが嬉しいです。今回は彼女の表現力、存在感がとても重要。彼女のクラシックの技術と溢れんばかりの感情表現で豊かな花を咲かせてくれると思っています。

 

小㞍健太
一緒に作品をするのは初めてです。もちろん海外での経験や日本での活躍は知っていましが僕の中でとてもまじめな方という印象があります。色々なことを考えていらっしゃる方で、日本人の感性を持っているという印象ですね。そういう意味で小説家のような役どころがぴったりな方だなと思っています。もちろん技術が高く、ダンサーとしての身体にも恵まれているし、踊りも上手いし素敵だなと思っていますが、身体の中のセンサーがとても敏感に働いていて、彼ならサン=テグジュペリが考え、実行していたものが出せるのではないかと思います。

 

 

島地保武

僕は彼が大好きなんですよ。存在が好きですね(笑)。だから何か一緒にやりたいと思ってしまう。誰よりも童心を持ったやんちゃな人で「ダンスが大好きなんだな」というのが伝わってくる。大人の面もありながら子供のチャーミングさも備わっている、愛すべき大人のダンサーだなと思います。存在感がすごいから彼を形容するのは難しいですね。大人だけれど子供で、彼がいると舞台が楽しい、そういう存在なんですね。それはすごい才能です。彼が居るだけで場が埋まってしまうし、目の動き一つで、飄々としていながらも大劇場をコントロールできる人ですね。すごいなぁ~と思う存在です。頼りにしています。

 


『星の王子さま―サン=テグジュペリからの手紙』
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