落語家 桂米團治さん × 京都フィルハーモニー室内合奏団 理事長小林明さん × オペラ歌手 日紫喜恵美さん「おぺらくご」を大いに語る

今年で4回目になる、春秋座恒例「桂米團治 春秋座特別公演」。
1部は上方落語をきっちり演じる「落語会」。
2部はお馴染みになった「おぺらくご」の上演です。
「おぺらくご」とは、米團治さんが管弦楽と歌手と共に
オペラをダイジェスト版にし、
分かりやすい落語に仕立て上げたもの。
今回の「おぺらくご」は、初回に好評を博した
『フィガロの結婚』を一新し、
さらにバージョンアップしてお届けします。
まだ稽古に入る前、桂米團治さんと第1回目から出演してくださっている
京都フィルハーモニー室内合奏団の理事長小林明さん、
オペラ歌手の日紫喜恵美さんに集まっていただき、
大いに語っていただきました。

司会:舘野佳嗣(京都芸術劇場チーフプロデューサー)

第一部 「おぺらくご」の魅力

舘野
今回で、「おぺらくご」は第四弾になります。
第1回目は喜劇タッチの『フィガロの結婚』でした。
米團治
はい。これを新しく練り直して…
舘野
新演出でやろうということになったのですね。
今回は、どんな感じになりそうですか?
米團治
小林さん、何かアイディアありますか?
小林
僕はね、2回目は『ドン・ジョヴァンニ』で、
3回目は『コシ・ファン・トゥッテ』だったので
次は何やりましょう?となった時、
僕は『魔笛』をやりたいと思ったんですよ。
米團治
いやいや(笑)、『魔笛』は、そうとう作りこまないと…。
日紫喜
フィガロは「おぺらくご」以外でも、
もう20年ぐらいやっていますもんね。
小林
初回は米團治さんのアイディアで
20分強ぐらいの「おぺらくご」にしました。
日紫喜
本当にダイジェストですね。
小林
『ドン・ジョヴァンニ』の時には、
もっと長くなって40分ぐらいですかね。
そうやって、だんだん
「おぺらくご」自体、自然と中身が充実してきた、と。
その中で『フィガロ』をもういっぺん練り直して、
初演よりもう少し中身を精査して作り直す
というのが今回のコンセプトですね。
米團治
初演の時は、曲の出てくる順番も
本来のオペラとは変えてしまいましたし…。
その辺ももう一度、精査したいと思います。
やらせていただきます!
ところで今回、音楽の友社の『フィガロの結婚』の
ピアノスコアを買いにいったら、
楽譜が売って無いんですよ。絶版なんやって。
日紫喜
はい。無いですね。
米團治
なんでですか? 
音楽の友社のスコアには日本語訳が付いていて、
日本語で歌える唯一の楽譜だったんですが。
あれ、定番でしたよね。
日紫喜
今はどこのホールでも原語で、
イタリア語で歌いますからね。
米團治
ほとんどイタリア語?!
日紫喜
もしくはドイツ語ですね。
米團治
そう…。そういう風潮になってきてるの?
日紫喜
そうですね。ここ10年ぐらいはそうじゃないですかね。
米團治
あら~。でも、日本のお客さんは原語、分からないでしょ?
小林
他のオペラ上演も大体、字幕スーパーを出していますね。
映画館みたいにね。
米團治
字幕スーパーってどうですか?
小林
字幕を出す場所によりますかね。
まあ、左右に置いてあることが多いですね。
日紫喜
メトロポリタンなんかは座席についていますよね。
米團治
へえ~。実は、文楽もそうなんですよ。
日紫喜
へえ~。
米團治
日本語ですよ!
日本語なのに字幕が出るんですよ、最近。
僕、おかしいなと思うんです。
以前は、床本(ゆかほん=太夫の語る節が朱で書き入れられた本)
読みながら観ている人がいましたけれどね。
字幕スーパーだと太夫さんが語るより先に
ストーリーが進んでしまいますからね。
なんか今の世の中、字幕、字幕、になっていて。
僕、舞台人として、噺家として、
あんまり好きじゃないんです、字幕。
もっと刹那というか、
舞台の上で言ったことに瞬時にお客さんが反応しないと。
それにギリギリ近づける字幕の出し方だったら許せるけれど、
べったり字幕に頼るというのは
舞台芸術から離れていっている風潮にあると思うんですけれど、
お二方は、どう思いますか?
小林
タイミングよく出せればね。
タイミングが遅れたりすると誰が何を言っているのか
本当に分からなくなりますからね。
日紫喜
師匠のやっていらっしゃる、「おぺらくご」というのは、
オペラの美味しいところだけをギュッと掴み出して、
お客さんに日本語で投げて下さる。
それは受け止める側にとって、
強いインパクトがあると思います。
でも、もう一つ、オペラの歌詞の内容と
声をそのまま届けるという意味では
日本語では声が乗りにくいという面があると思うんです。
米團治
歌詞が違いますからね。
日紫喜
はい。ですから、しかたがないかな…。
イタリア語やドイツ語の響きを
そのままダイレクトに伝えるということでは
字幕スーパーで観るオペラも面白いのではないかと思います。
でも、それを凝縮して美味しいところだけを
取り出して見せてくださるのが師匠の腕で、
そこが毎回、私たちも楽しみなんですけれど。
米團治
オペラは言語の面白さや美しさがあると思います。
でも例えば、「おぺらくご」を
イタリアで上演することが決まったら、
ぼくもイタリア語を覚えようと思うんです。
まぁ、そんな話が無いから
こんなこと言えるんでしょうけれど(笑)。
日紫喜
でも、アメリカでも落語がね。
米團治
そう、英語落語って流行っていますからね。
だから、これからの演じ手というのは、
お客さんに分かってもらうためにやらないといけない、
という使命があると思います。
落語なんかでは、文枝師匠のところに
桂三輝(サンシャイン)さんがいてて、
桂福團治さんのところに桂福龍(フクリュウ)くんという
外国のお弟子さんがいるんですが
結構、英語落語で面白いんです。
日本に来ている外国人のために
彼らが落語をやったりもします。
するとね100年後、はたして日本人の落語家が
何人生息しているか(笑)。
小林
相撲みたい(笑)
米團治
ほんま、相撲みたいですよね。
それぐらい英語が割と普通に入ってきているんで。
そうなると、海外へ行ったときに海外の言葉に合わせるということも
したいなと思いますしね。
日紫喜
ぜひ、イタリアで!
米團治
ペルファボーレ!(英語で“please”の意味。「お願い、よろしく」の意味)
日紫喜
あはは(笑)
小林
全くオペラを観たことがなくても、
予備知識を持っていればいいけれど、
やっぱり予備知識を持っていない人も多いから、
僕は字幕も必要やと思います。ただ、訳し方が悪い。
米團治
そうそう! おっしゃる通り。
小林
訳は大事やし、その訳で歌って、
言葉が分かるっていうのが本当にいいと思う。
「おぺらくご」を聴いてくれたお客さんが、
これは面白い! じゃあ次はオペラを観に行こか、となった時
2、3回観に行ったら大体、筋は分かりますからね。
だから僕は、その時には
字幕スーパーは無くても大丈夫だと思うんです。
米團治
うんうん。
小林
だから僕はお客さんもそのぐらい行ってほしいな、って思うんです。
米團治
お客さんも共に成長するというか。
小林
そうそう。
米團治
それはそうですな。
落語は、あらすじを絶対書きませんから。
書いたら終わりみたいなもんやからね。
日紫喜
あはは(笑)
米團治
予備知識もないお客さんにポンと提示して
笑っていただいて納得していただくというのが落語だから、
その手法を使って、演じようというのが、
「おぺらくご」の一番のコンセプトです。