渡邊守章記念 春秋座―能と狂言
「春秋座―能と狂言」シリーズは、2009年度に渡邊守章氏(当時舞台芸術研究センター所長)の企画・監修により始まりました。 昨年度に引き続き、「演出」に焦点をあて、能・狂言の新たな楽しみ方、見所に迫ります。
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18才以下の方は無料*、ご同伴者様は半額*で鑑賞いただけます(要事前申込)。
*無料対象は平成19年(2007年)4月2日以降に生まれた方です。
*半額対象となる人数には要件があります。
公演詳細や受付方法は、随時更新して参ります。
心を動かす本格的な舞台を、この機会にぜひ劇場でご体感ください。
詳細はこちら
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プレトーク 「演出をめぐって」
片山九郎右衛門(観世流シテ方)
天野文雄(大阪大学名誉教授)
狂言 『孫聟』
シテ(祖父):野村万作、アド(舅) :深田博治、小アド(太郎冠者):月崎晴夫、小アド(聟): 野村裕基
能 『屋島』
前シテ(漁翁) :観世銕之丞
後シテ(源義経) : 〃
ツレ (漁夫) :観世淳夫
ワキ(旅僧) :宝生常三
ワキツレ(従僧) :舘田善博
ワキツレ(従僧) :小林努
アイ(屋島ノ浦人):野村萬斎
笛:竹市学、 小鼓 :大倉源次郎、 大鼓 :亀井広忠
後見 :青木道喜、鵜澤光、大江信行
地謡 :片山九郎右衛門、味方玄、浦田保親、片山伸吾、分林道治、橋本忠樹、安藤貴康、浅井風矢
舞台監督|小坂部恵次、大田和司(京都芸術大学舞台芸術研究センター)
照明デザイン|藤原康弘
協力|銕仙会、万作の会
後援|京都市教育委員会
令和7年度 文化庁 劇場・音楽堂等における子供舞台芸術鑑賞体験支援事業
老人の「自負心」と義経の「妄執」
―『孫聟』と『屋島』―
『孫聟』は和泉流だけにある作品です。それだけに京都では初めてという人も多いと思いますが、いずれかといえばシテの祖父(おおじ)を演じる万作氏好みの作品でしょうか。この日は聟が舅に初めて会うめでたい日ですが、祖父はその中心ではありません。しかし祖父はアドの舅をさしおいて、同じことを繰り返し太郎冠者(小アド)に指図したりします。こうして祖父の「さしでがましさ」が描かれ、やがて老人の「自負心」が浮き彫りになってゆきます。聟は孫の裕基君ですから、ことさら祖父役の万作氏の芸の見せ所です。
『屋島』は有名な義経の「妄執」を描いた世阿弥の能です。その「妄執」のために義経の霊は現世に戻ってくるのですが、その「妄執」とは詞章にあるように、弱い弓を流してしまったことにほかなりません。それを中心に据えて「主題」にしたのが『屋島』です。替えアイとして有名な那須の語リはずっと後代の工夫で、本日は萬斎氏による「居語リ」です。また、前半では『平家物語』で知られる景清と三保の谷の「錣引(しころび)き」が老漁夫(義経の化身)によって語られますが、この二人は能には登場しません。この物語がおかれた理由は、義経の「失敗」を際立たせるためなのです。また、キリで壇の浦の戦いにかさねて修羅道に堕ちた義経と教経の争いが描かれるのも、現世での失敗が修羅道において取り戻せたことを示しています。こうしてみると、銕之丞氏演じるこの能には従来の世阿弥の修羅能とは少し変わった「趣向」もあるようです。 (天野 文雄)

