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森山開次さんに聞く『ダンスの作り方』インタビュー 前編〈2015〉

前列左より:近藤千紘(舞台芸術学科3回生)、森山開次、岡村果林(舞台芸術学科3回生)、富松悠(ダンサー) 後列左より:室田敬介(舞台芸術学科3回生)、原田佳名子(舞台芸術学科3回生)、御厨亮(俳優/夕暮れ社弱男ユニット)


個性(キャラクター)豊かな 「こどもBONEズ 京都」10名を加え 新たな<春秋座バージョン>として上演する、 「LIVE BONE in 春秋座」。 こどもBONEズ 京都を指導するのが 京都造形芸術大学の舞台芸術学科現役の学生、 若手ダンサーとして活動する卒業生の アシスタントダンサーたち。 森山開次さんの背中を追う彼らが、 稽古の後森山さんに色々質問をしました!

場所:春秋座楽屋にて

 

こだわりを持たないというこだわり

御厨 本日はこどもたちとの初回稽古、お疲れ様でした! 今回進行を勤めます御厨です。よろしくお願いいたします。事前にメンバーから森山さんに質問したいことを受け付けました。
まず、一問目!

全員 ジャジャーン!!

『振り付けは何を最初に決めて、作りはじめますか?』

森山 なるほど。こういう質問がくるわけですね。

御厨 結構まじめに質問します。色々参考にしたいなと思って。

森山 これは色々なパターンがあると思うし、振付家によって色々なアプローチがあると思うから「僕は」ということでしかしゃべれないけれど、そういう意味では「色々」という答えになっちゃう。 一個のやり方だけではないかなあ。というのは、もちろん音楽を決めてから 音に振り付けていくアプローチもあるし、テーマを決めて即興で動いたり動いてもらったりして、 そこから色々なものを抽出して集めていって 一つの形に昇華していくやり方も当然あるし。

単純なことで言えば、回転するようなイメージにするとしたら自分だったらどういう回転ができるか。いくつかの模索をして色々な回転の動きを試してみる。人に振り付けるのだったら、それぞれに試した動きをやってもらって、 そこから作ることもあるから、 何を最初にといわれたら、その時々としかいえないのですが。

昔、僕の中に「音楽に対しての踊り」という思いが 大きかったことがあって。というのも僕はミュージカルから踊りを始めたから、音楽が先にドンッ! とあって、 それにカウントがあって、歌があって、と割と音に踊らされるというか、音楽が踊りの軸になる。まあ歌だったら音痴とかっていうけれど、ミュージカルを始めた頃、リズム感が悪いとか、遅れているとか早取りだとか、そうとう言われたので「音に対して踊らなきゃいけない」という意識がすごくあって。それで、すぐ嫌になっちゃってね。

「なんで俺、音に合わせなくてはいけないか?」って。ジャズダンスとかスタイルによって教え方があるけれど、ワン エンド トゥ…(振りを見せて)みたいなことをやった時に、 歌の「ア~♪」に合わせて振り付けとかやったりするじゃない、そうすると、「このアーは誰のアーだ。俺のアーじゃない」とか 若い頃は思ったりして(笑)。

全員 笑い

森山 今はもう、そういう教え方もありだし、別にそれに対してカチンとかこないし、いちいち問題にしないけれど、

御厨 その時は

森山 うん。踊りを始めた時はね、疑問が大きくて。 特にジャズダンスの場合って音によって振り付けをしている感じじゃないですか。 ワン エンド ツゥ…ってリズムに合わせて、 それに色々な形があるっていう。

そこで音なんていらない、 「音は外す」という振り付けの方法を模索した時期があって。 今、コンテンポラリーや創作では、 そういうことは全くあることで結構、普通なんだけれど。 僕らがダンスを始めた「いわゆるダンス」が盛んだった頃はダンスは音に合わせて、というのが常識だったから、 音を外すことの勇気が必要だった時期があったんだね。

で、ミュージカルから離れて「音無しで踊ります」って外に出たりしてやっていて。 でも実際は風の音に耳を傾けていたり、 心臓の音に耳を傾けて、自分の呼吸でリズムが生まれたりとか、 音が自然と入ってくるようになったのね。

今は、まず音楽家にこういうテーマで曲をと考えてもらい、 同時に僕も振り付けをするという同時作業で 1つのシーンを作っていくことが好きになっています。 まあ、音楽からは外れた時期がありつつ、 今は同時にやっていきながら色々な視野をもって、 時によっては色々なテーマを最初に決めていくってことですかね。

僕も色々な振付家に振り付けてもらう時、 「そういう振り付けの仕方なんだ」 というのを体験するのが楽しい。 何かを作っていく時にイメージで作るより、手法や作り方、つまりアプローチの仕方を変えていくと、 変ったものが生まれてくるんだなと。

例えば、いつもならこう動いているけれど(動きをやってみせて) そうじゃない、こういう動き方をしてみよう、とか やってみると面白いんじゃないかな。

全員 あ~(大きくうなずく)。

御厨 「振り付けを体験するのが楽しい」とおっしゃいましたが、逆に、

『他人に振り付ける時に、一番意識していることは何ですか?』

森山 これはね~、これも色々だと思いますが、僕は作品を発表するだけでなく一ダンサーとしていろいろな舞台に立ってきたから昔、振り付けをもらう時に 「ダンサーの役割は振付家の意図を軽々と越えること」みたいな、今聞くと高ビーなことを言っていたときもあったんだよね(笑)

全員 あははは

森山 でも、色々な振付家を見ていて、そこまで考えられているかな。そこまで振りに意味を持っているかなという疑問を実際、ちょっとは持ちながらも、意味は持たなくても良いという振り付け、これが良いじゃん!って直感で生まれたものでもいいと思っているし、 すごく考えられたものもいいと思っているんだ。

僕は、ダンサーが振付家の意図を汲もう、汲もう、 みたいなことを思ってやるのは、 ちょっと面白くないなと思うタイプだから。 深く考えたものであろうが、ポッと出てきたものであろうが、 その意図をダンサーは当然、超えていく というスタンスでいかなくてはいけない、という考え方なんですよ。

だから(意味を)待っているのは嫌だし、ポッと考えられたものでも「いや、俺ならここへ行くって、確実にっ!」というぐらいの意気込みでやってきた。すごく考えられたものでも、そのイメージの世界をダンサーは当然、越えるのがあたりまえという考えで戦ってきているから。振付家のイメージよりも違うイメージをその振りに付けていこうというアプローチでやってきたので。

だから他人を振り付ける時に意識していることは、正直、ダンサーがそうやって勝手にやってくれることを望んでいるから、 そういうことも期待しつつ、 振り付けする立場になった時に、ちゃんと意識することは考えるけれど、そこまで深く考えずに渡すようにしてダンサーを信頼することだと思うんだけれどね。

だからといって振り逃げ師になってはいけないけれど(笑)。考えて、考えてやって、考えすぎるよりは、直感でやって振り逃げ師になることが丁度いいなと思う時もある。

全員 ああー

御厨 “振り逃げ師” ですか。

森山 分からないけれど、ベジャールとか大御所の振付家が どこまで考えていたか僕は疑問なの。結構、直感でやっているかもしれないし、 遊び感覚でやっているものもあって、それが代々伝えられて名作になっていることもあるだろうし。 その違いって踊る側だったり、色々なことで変化する可能性があるので面白いなと思う。

全部のことに言えるかもしれないけれど「こだわりを持たないっていうこだわり」を持つことを一番、大切にしているんです。だから振り付けをする時にみんなを伸ばしてあげたいっていう思いもあるし、そこまで考えないで勝手に伸びろよという両方を投げては汲んで、また投げては…みたいな感じですかね、今のところ。

意識していることは大きく考えれば2つある。 その時によって違うけれど、この人を活かしたいということであれば、 そのことを考えるし、逆に放っておこうということを同時にできるのがいいのかなと思っているんですけれども。

全員 (真剣に頷く)

森山 僕の母親は天真爛漫で感情的なタイプで、 わりと無責任にホホホッ~って笑っちゃう人だったんだけど、 一方、父親はすごく計算高くて設計技師なんですよ。毎日計算して、設計して、細かい製図を書いているタイプ。 そんな両親なので僕もすごく緻密なところは緻密で、 すごく乱暴なところもあるという両方を持っていて、 1つの事に対して全部2つの答えを持っている感じ。

富松 振り付けをした時点でそれを選択していくダンサーもいますよね。 開次さんが2つ与えていることに対してダンサーがどのように意識していくか。

森山 かっちり決めていきたい時は、 それを制限していくというバランスもあると思うんですよ。「もっとここを活かしたい」と思う作品だったら、 そういう視点が必要だろうし。というような感じではあるかなあ。

御厨 なるほど。作品にもよるということだと思うのですが。では、
『日常で何割ぐらい作品のことを考えていますか?』

 

森山 極端な話でいったら僕は100%考えていると思います。

御厨 普段の生活の中でですか!? 

森山 そういうタイプの人間だよね。オンオフが上手くないの。

御厨 あー。

森山 いつも繋がっちゃっていて。ただ、ずーっと悶々としているわけではなくてプライベーと稽古との大きなスイッチはありますよ。家に帰れば子供とも話をしたいし、子供と遊ぶ時は切り替えて遊ぶんだけれどね。そこでは切り替えるけれど、そうしながらもアンテナを張っている気がする。子供と遊んでいても何かに使えるなとか、ダンスに通じるなとか思ったり。かといって子供との時間をないがしろにしているわけじゃないんですよ。近藤良さん(コンドルズ主宰。 振付家・ダンサー)とも、そんなことを話していたんですが、良平さんは家に帰ったら何も振り付けのことは考えないんだって。

全員 へー

森山 ダンスは現場に行って考える。家には一切、持ちこまない。本当かなあって思うんだけれど(笑)。

でも、どっかで遊びながら上手く活かせているタイプなんだろうね。 僕はそういう意味では家でも仕事をしていることもあるんだけれど、でもまあ上手く日常で100%を注ぎ込みつつ分けられるような感じでやりたいと思うんだ。プライベートと両立するような感じで。プライベートで旅行とかも行くんだけれど、 行った先できれいな空を見ていたら、 そういうヴィジョンをやっぱりダンスに使っちゃう。だから、ただ単純に旅行だけというのはないかもなあって。そのことを楽しんでいるんだけれどね。

でもダンサーや作品を作っている人というのは日常で起こる、そういう体感を活かすということだから、 かっちり分かれているわけではないからね。でも創作自体の作業は家に持ち込まないようにしているけれど。

近藤 作品を何個も掛け持ちしている時はどうしているんですか?

森山 それはね、もうグワーってなる。今も3つ掛け持ちしているんだけど、

全員 うわー!

森山 しかも3つとも1時間ぐらいの作品で。

全員 わー。

森山 全部、人を使うし、音楽も全部新しいのをやっていて。そのうちの1つが『LIVE BONE』。今回もここへ来る前の日は違うことをやっているし、 その前の日はまた違うし。 ここに来たらこのモードになって、 明日は違うことを考えているので、 そこはすごく複雑になっているんですけれど、しょうがないね。

御厨 開次さんの作品を観ていると1個1個のダンスがもう全然、別のもので、数限りなく振りがあるように思えるのですけれど、自分のダンスはそんなことないから… 。どの作品にも使える動きが出てきちゃったときとかって、

森山 振りを使いまわしちゃうときとかね。自分から出るものだからカラーがあるので似ちゃう時とかあるし正直、併用しちゃう時もなくはない。僕の場合は、こうやって入っていくのがクセなの。ここから入るのが(フリを見せる)。

全員 あー 

御厨 『LIVE BONE』にもありますよね。

森山 キックしてから入ったり。それを何回かやっていると絶対、ここから入っちゃう。人に振り付ける時は上手く出さないようにして、引き出しは上手く持つようにしてはいるんだけれどね。キーポイントは「引き出し」+「そこにいる人たちを見ること」 だと思う。それで振り付けを組むようにすると変に混同しないのかなって。

今日、稽古しながら思ったことが、 こどもダンサーズにストリートをやる男の子がいるでしょ?  彼はロックダンスが得意だから、 それを見ていて僕は普段は出さない、 ドンドン! っていう振りを出すわけじゃない。 そういう風に音だったり、人を見ながら、そこにあえて僕の世界じゃない動きをやっていくと。 そういう意味では僕はミュージカルからやってきたので全てのジャンルのダンスを学んでいるから、 そういうのが割と器用といえば器用なのかな。

全員 ありがとうございます。 

 
 
≪後編は『LIVE BONE』についても伺います!≫
 

 

森山開次(もりやま・かいじ) 振付・出演

ダンサー・振付家。1973年神奈川県生まれ。21歳でダンスを始める。1999年以降、多くのダンス公演・TVCFなど幅広いジャンルで振付を担当。しなやかながら直線的で、空間を切り裂くような表現に定評があり、2001年エジンバラフェスティバルにて「今年最も才能あるダンサーの1人。彼1人のために観にいく価値あり」(英・Scotsman誌)と評される。2001年ソロ活動開始。初ソロ公演『夕鶴』以降、和の素材を用いた独自の表現世界で知られ、2005年ソロ作品『KATANA』にて「驚異のダンサーによる驚くべきダンス」(米・New York Times紙)と評される。2007年ヴェネチアビエンナーレ招聘など国内海外での作品発表のほか、映画・テレビ・写真作品への参加、個展開催など幅広い媒体での表現活動に積極的に挑戦している。2010年日本ユニセフ協会「世界手洗いダンス」振付、以降こどもへの手洗い普及活動に取り組む。主な出演作品に、映画『茶の味』『カムイ外伝』NHK教育テレビ『からだであそぼ』レギュラー、『トップランナー』『情熱大陸』『課外授業・ようこそ先輩』『空海 至宝と人生 第三集:曼荼羅の宇宙』ナビゲーター、『旅のチカラ』、『日曜美術館』他多数。2012年発表の新作『曼荼羅の宇宙』にて平成24年度第63回芸術選舞踊部門新人賞および優れた舞踊作品を発表した作者に贈られる第30回江口隆哉賞受賞。2013年5月出雲大社遷宮記念奉納公演出演、9月―10月『スポーツ祭東京2013』(国体+全国障害者スポーツ大会)開会記念式典内「未来からきた手紙」メインパフォーマーのほか、日本の芸術文化を海外へ広める文化庁文化交流使に伝統舞踊以外のダンサーとして初めて任命をうけ、ASEAN交流年を記念して本年度インドネシア・ベトナム・シンガポール他訪問。
公式サイト:http://kaijimoriyama.com