日本の古典芸能や芸道を支えてきた信仰はいわゆる宗教とは異なる。教祖、教典、信者集団の三者が完備した人為的な宗教に対して、この三者を欠く自然発生的な宇宙の生命力への崇敬が信仰である。日本の芸能・芸道が西欧の芸術と異なる特質を持つのは宗教ではなく信仰を母胎として誕生したからである。
日本人の信仰は、万物に霊魂の存在を認める信仰、アニミズムから始まった。やがて、霊魂のなかで人間の生死と深く関わりを持つ霊魂が特別に精妙な働きを持つと信じられて《カミ》の位置に昇華した。それらの神々のなかで最高の位置にあるのが大地の豊穣を象徴する地母神である。
芸能・芸道の型は、《カミ》つまり普遍的価値、宇宙の生命へ通じる通路である。型を通して、日本人は、そこに宿る《カミ》を確認するのである。
企画・コーディネーター 田口章子(京都芸術大学教授)