演出:シャンカル・ヴェンカテーシュワラン 『インディアン・ロープ・トリック』(演劇作品/世界初演)
共同幻想は人をどこに連れて行くのだろうか
シャンカル・ヴェンカテーシュワランは、切実に世界を見る人である。彼は南インド・アタパデイの山奥に住みながら、演劇というバスケットを携えて、人々に出会いに行く。俳優、建築家、音楽家、舞踊家、それぞれの存在の中にインドの現実を見出し、強い眼差しで見る。社会の制度が個の身体に深く作用し、それぞれの生きる姿勢、あり方を決定づける事に深く注意を払い続ける。その結果、彼の作品に参加する俳優は、様々な問いを背負って作品作りに加わることになる。過去、京都芸術劇場 春秋座で上演された『水の駅』(2016 年)、studio21 で上演された『犯罪部族法』(2019 年)の2作品いずれもそうした出会いの瑞々しさに溢れていた。
シャンカルは、現在も様々な問題を内包し流動するインドの現実、多数の民族あるいは階層が存在する世界にあって、この作品作りにあらためて挑戦しようとしている。私たちの社会にあって多数派は自らの支配のために物語を作りだす。過去にあっては、大きくは神話であったかもしれないし、庶民の暮らしの中では大いなる幻想の出現というドラマであったかもしれない。日本にあっても過去、更に近い過去にもそうした事を見いだすことができる。今回、京都が初演となる本作品では、古くより人々の幻想を掻き立てた「インディアン・ロープ・トリック」という魔術をめぐる物語をメタファー(たとえ)とし、さらに南インドの口承叙事詩を用いながら、彼自身が生きるインドの現実を深く分析し、批評し、悩み、混乱そのものを引き受ける。この出発点から、シャンカルとその仲間は私たちが生きる現在をどのように透かし見せてくれるだろうか。
舞台は、典型的なインドの田舎の市場と設定される。観客はおそらくその広場の民として招かれるのだろう。象や蛇使いなどいかにも“インド”らしい人々やモノがひしめいている。突如、魔術師によるロープを使った見世物が始まる。インディアン・ロープ・トリックである。このトリックにまつわるいくつもの物語が語られる。しかし、一転して南インド口承叙事詩がインドの抜き差し難い歴史の現実に観客を招き入れる。天空に向かってあがっていく魔術師、地球の地下深くに降りてゆく不可触民(アウトカースト)の聖者――天地真逆のベクトルへ向かう二つの物語――これらに潜む、ヒエラルキー、排除、暴力など今日も取り巻く複雑な社会構造を、シャンカルが演劇という抽象性を豊かな武器にして春秋座舞台に展開する。私たちの共通の未来のために。
「インディアン・ロープ・トリック」とは・・・
奇術師は弟子の少年を連れて人々の集まる広場に現れる。
奇術師が魔法をかける行為をすると、ロープは空高く登って行く。
少年はロープを登って行き姿が見えなくなるが、いつまでたっても戻ってこない。
奇術師もロープを登って行き姿が見えなくなる。
突然、少年の悲鳴が聞こえ少年のバラバラになった体が空から降って来る。
奇術師がロープを降りて来てバラバラになった少年の体に魔法をかけると、少年は元通り復活する。この魔術については14世紀のモロッコ人による旅行記を始め、幾つかの文献に記載されており、19世紀には多くの西欧のマジシャンがこのトリックに挑み、インドのマジシャンもそれに追従する形でおこなうようになった。
なお、この物語には様々なバリエーションが存在する。
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シャンカル・ヴェンカテーシュワラン Sankar VENKATESWARAN
1979年生まれ。インド・ケーララ州出身の演出家。2007年、劇団シアター・ルーツ&ウィングスを旗揚げ。2015年より2年間、ケーララ州国際演劇祭の芸術監督を務める。2016年より2シーズンに渡り、ドイツの公立劇場ミュンヘン・フォルクスシアターのレパートリー作品の演出を務める。2016年、太田省吾作『水の駅』を春秋座で発表。2019年1月に『犯罪部族法』をstudio21にて上演した。(写真:Gabriela Neeb)
コンセプト・演出:シャンカル・ヴェンカテーシュワラン
出演:チャンドラ・ニーナサム、アニルドゥ・ナーヤル、サンジュクタ・ワーグ
音楽:スニール・クマール・PK
舞台美術:ジャン=ギ・ルカ
プロデューサー:鶴留聡子
舞台監督:大田和司 照明:葛西健一 音響:奥村朋代
上演言語:英語・カンナダ語(日本語字幕つき)
客 席:円形客席(舞台上特設)
主催:京都造形芸術大学 舞台芸術研究センター
製作:シャンカル・ヴェンカテーシュワラン、京都造形芸術大学 舞台芸術研究センター、シアターコモンズ(東京)
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)
独立行政法人日本芸術文化振興会
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