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共同利用・共同研究拠点2019年度リサーチ支援型プロジェクトⅠ 公募研究 2019年度リサーチⅠ|舞台作品『アンティゴネー(仮)』制作に向けた、大逆事件関連史跡と墓にまつわるリサーチ

島貫泰介、捩子ぴじん、三枝愛による『アンティゴネー(仮)』(上演時期未定)制作のための共同リサーチ。作品の発表形式は上演と展示の2つを予定している。ソポクレース作の同名悲劇と、1910 年から11 年にかけて日本で起きた大逆事件を軸に、国家、家族、個人、土地と死者の弔いに関する調査・研究を行う。

 『アンティゴネー』は、テーバイ王家一族に起きた悲劇を描いている。敵国に与した兄を埋葬することを主張し、周囲と対立する妹アンティゴネーを中軸とする同作は、ヘーゲルが指摘した「国家の法」と「自然の法(家族愛)」の対立としても論じられてきた。異なる意志の衝突は、民族・宗教・経済格差などを背景にした社会的分断に苦悩する現代とも通じるテーマであり、それゆえに同作は時代と場所を越えた普遍性をいまも持ち得ていると言えるだろう。

 私たち研究会では、「国と個人の対立」の構造に目を向けながら、同時にアンティゴネーが行おうとした「特定の空間/土地を占有し、死者を悼む場とすること」の美学と政治性について考えたい。

 東日本大震災以降、死んでしまったもの、失われた物事、忘却する/されることへの関心を、多くの人々が持つようになった。そこには感情的な反応だけではなく、日本に根付く儒教的価値観、コメ本位制、明治以降に整備された家制度など、私たちの生を規定する共同体と制度の問題があるだろう。そして、その「継続」を維持する“かすがい”としての葬送儀礼、祭祀、そして墓について研究し、考察することも本研究会が掲げるテーマにおいて重要だ。

 「共同体」を維持するための可視/不可視のエコシステムからは、ときにさまざまな理由でこぼれ落ちる者や事があらわれる。日本におけるその例の一つが、幸徳秋水ら社会主義者が明治天皇暗殺謀議の冤罪で罰せられた大逆事件だ。極刑に処された12 名、獄死した5 名のうちの多くが正当な埋葬を国家や公的組織によって禁じられた。戦後の復権運動によって墓碑や追悼の碑が新たに建てられたものの、事件から100 年以上経った現在でもその歴史の傷を見てとることができる。

 本研究では『アンティゴネー』と大逆事件を参照点に、双方の識者への聞き取りや研究などを進めながら、現代人にとっても身近な「お盆」「葬式」「墓」「もがり」といった、死者を見送り、記憶すること、さらに「相続」「婚姻」といった家制度に関する事例をリサーチしていく予定だ。

※参考写真はシンガポールの日本人墓地(撮影=島貫泰介)