クローデル『繻子の靴』上演のための実践的研究
テーマ研究Ⅰ【クローデル『繻子の靴』上演のための実践的研究】
研究代表者:渡邊守章(演出家/京都造形芸術大学客員教授)
本研究プロジェクトは、本研究拠点において実施したH25年度テーマ研究「近代日本語における〈声〉と〈語り〉」での研究成果と、それを踏まえて、翌年に実施した「クローデル作『繻子の靴』上演のための実践的研究」の上に、「近代日本語」を用いた舞台作品の一つの頂点でもある、ポール・クローデル作/渡邊守章訳『繻子の靴』の舞台上演の要求する多面的作業を、具体化しようとするものである。
舞台空間に設営された高谷史郎のマルチメディア映像を映すパネルが、この「世界大演劇」の空間を出現させ、そこに俳優の台詞や動きが展開される「舞台」は、文字通り「芝居が世界」であるような壮大な《演戯》となるはずである。
今年度は、前記のテクノロジー的実験と、俳優の演技とがどのように共鳴しあうかを、実際の舞台で確認することを主眼とし、その劇場実験・稽古のもようを一部公開する。
作|ポール・クローデル
翻訳・構成・演出|渡邊守章
映像・美術|高谷史郎
出演|
吉見一豊、石井英明、瑞木健太郎(以上、演劇集団円)
阿部一徳(SPAC)
千代花奈、鶴坂奈央、永井茉梨奈、山本善之、片山将磨
岩﨑小枝子
メディア・オーサリング |古舘健
映像技術|三谷正
音楽|原摩利彦
演出助手|木ノ下裕一、岩﨑小枝子
舞台監督|夏目雅也
技術監督|小坂部恵次
劇場スタッフ|楢崎英三、小山陽美、神家洋志郎
“繻子の靴”とは・・
詩人・外交官で、大正年間に日本にも駐在したポール・クローデル(1868-1955)が、1925年に東京で書き上げた集大成的な戯曲で、「四日間のスペイン芝居」と副題された、リヒャルト・ワーグナーの『ニーベルングの指輪』四部作に匹敵する規模の「世界大演劇」です。新大陸のコンキスタドール(征服者)ドン・ロドリッグと、すでに人妻であった若いスペイン貴族の女性ドニャ・プルエーズとの間の、地上では結ばれることのない《禁じられた恋》を主筋にし、新旧両世界に展開される、文字通りの「世界大演劇」です。
タイトルの『繻子の靴』は、夫の守るアフリカの要塞へ出発する前に、館の門の上に祀ってある聖母像に、自分の片方の靴を捧げて、「悪へと走る時には、片方の足が萎えていますように」と祈る感動的な情景に由来します。「クローデル詩句」と呼ばれる長短入り混じる独自の自由詩形で書かれた台詞の迫力、その劇作術上の実験と並んで、演出面でも、世界の様々な舞台芸術を活用した極めて野心的な作品で、1943年のジャン=ルイ・バローによる上演版の初演以来、二十世紀フランス演劇の一つの頂点と見なされています。全曲上演すれば15時間を超える大作です。