1. HOME
  2. 研究活動
  3. 2021年度リサーチⅠ|罵倒の作法 –求められる怒りと憎しみの表現形式を巡って

共同利用・共同研究拠点2021年度リサーチ支援型プロジェクト 公募研究Ⅰ 2021年度リサーチⅠ|罵倒の作法 –求められる怒りと憎しみの表現形式を巡って

◎『罵倒の作法』プロジェクトの趣旨

この世界で今、あらゆる罵倒が飛び交っている。罵倒は、理性や倫理の弾けたところで沸き起こる。怒りや憎しみの一表現形態と目される罵倒は、力を持つ側ではなく、弱き者たちの手にこそあるべきだ。理性や倫理の枠外で、表現しなければ生きていけなくなるような機会が人にはあるのだ。しかし、そこには「作法」が必要とされるのではないか。ここでいう弱き者たちとは、いわゆる社会的マイノリティーの人々のみを指すわけではない。個々人の中に潜む弱き声、それらが発する罵倒の言葉に耳を傾け、いかなる形式でそれらに表現の場を与えられるかを問うことが本プロジェクトの主題である。

ペーター・ハントケは『観客罵倒』(1966)の中で「あなた達が罵倒されるのは、罵倒だってあなた達に話しかける方法のひとつだから。」という台詞を書き、罵倒することで、触れ合い、火花を飛ばし、演技空間を破壊し、壁を取り払い、他者をよく見ることができる、とした。これを罵倒に見出しうる一つの効能と仮定したとして、しかし、全ての罵倒がそのような効能を持つとは考えられない。「罵倒」とはひとつの行為(act)である。そこに「作法」という他者に向けての言語動作に関するある形式が加わった時、それはひとつの表現行為(performance)となる。では、現代におけるこの分断と対立の状況の中で、怒りや憎しみといった感情に表現の場を与え得るとしたら、それはいかなる形式によってか? そしてそれは人々の間で共有し得るものなのか?

長期プロジェクト『罵倒の作法』は、5年を目処とし、様々なリサーチや大小規模の作品発表を繰り返しながら、最終的なパフォーマンス作品の完成を目指す。

 

◎スタートアップ・リサーチ『罵倒の作法 –求められる怒りと憎しみの表現形式を巡って–』

❍研究趣旨・目的 ― スタートアップ・リサーチでは、現在の世界への認識を深化させることとプロジェクトのキー概念となる「罵倒の作法」という語がいかなる広がりをもっているかをまず言語的な地平で確かめることが主眼となる。現在の対立構造はいかにしてできあがってきたのか、その構造の細部にいかなる問題が潜んでいるのか、その対立の最前線で実際に何が起きているのか、分断と対話の不可能性に抗ういかなる試みが行われているのか、それらを知る必要がある。そして、私によって組み合わされた新しい概念「罵倒の作法」との接点を探りつつ、この語の持つ意味、この語を利用して新たな思考と実践の展開を図れるかどうか、そしてこの語が単なる個人の私的概念に留まらず、他の人々にとっても利用価値のある、共有し得るものなのかを試さなければならない。最終的に、現在の世界状況への多様なパースペクティヴからなる深い眼差しと、「罵倒の作法」という語が触発する多様なイメージを獲得し、「罵倒の作法」を巡るレファレンスを構築し、次年度からのより実践的なリサーチへと繋げることが本スタートアップ・リサーチの目標となる。

❍研究方法 ― 今回のスタートアップ・リサーチにあたっては、まず私自身の考えをまとめた論文を基調報告とし、舞台芸術を中心とした芸術分野・人文科学の研究者、実践家、アーティストなどに読んでいただき、そのリアクションとして、それぞれの立場からの60分の講義と質疑応答30分をセットにした公開のオンライン・セッションを実施する。そしてこのセッションを受けて私の論文の加筆・修正を行う。このスキームを5回繰り返しながら、最終論文を完成させることを目標とする。次年度以降の実践的なパフォーマンス制作における言語的レファレンスを整え、同時にこの問題をできるだけ広範に、正確に、様々な人と共有し、今後のプロジェクトを展開する上での自身の言語的土台とする。

プロジェクトの詳細ページはこちら

【研究メンバー】
研究代表者:木村悠介(演出家)


大学開学30周年記念・劇場20周年記念企画