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共同利用・共同研究拠点2020年度(延期分)劇場実験型プロジェクト 公募研究Ⅰ 2020年度劇場実験Ⅰ(延期分)|多和田葉子の演劇 ~連続研究会と『夜ヒカル鶴の仮面』アジア多言語版ワーク・イン・プログレス上演~

【研究内容】日本語とドイツ語とで創作をする作家・多和田葉子。氏の初期の戯曲作品『夜ヒカル鶴の仮面』に焦点を当て、オンラインでの連続研究会と、京都芸術大学での上演とフォーラムを行います。
【研究代表者】谷川道子(東京外国語大学・名誉教授)

多和田葉子の演劇『夜ヒカル鶴の仮面』劇場実験&フォーラム

日時:2021年10月30日(土)/31日(日)
会場:京都芸術劇場 春秋座搬入口 ほか

日本語とドイツ語で創作する作家・多和田葉子。
近年、多和田の戯曲上演に取り組む、演出家・川口智子が、“失われている弔い”を探して多和田の初期戯曲『夜ヒカル鶴の仮面』を上演します。
8月~9月にかけてオンラインで行われた「多和田葉子の演劇」連続研究会の締めくくりとして、研究者と実演家が一堂に会するフォーラムを行います。

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料金:入場無料(劇場実験・フォーラムとも/定員あり/要予約)
予約:2021年10月1日(金)よりご予約開始

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ご予約受付について(10月21日)
※現在【フォーラム】のみ事前予約を受付しています。
※【劇場実験】のご予約受付は終了致しました。
当日券は若干数ご用意の予定です。
開演20分前より、当日券の受付を開始致します。

 

【劇場実験】『夜ヒカル鶴の仮面』
日時:2021年10月30日(土)  16:00〜(開演15分前より受付・開場)
会場:京都芸術劇場 春秋座搬入口

ご予約受付について(10月21日)
 ※【劇場実験】のご予約受付は終了致しました。
  当日券は若干数ご用意の予定です。
  開演20分前より、当日券の受付を開始致します。

作    :多和田葉子
演出・美術  :川口智子
出演   :滝本直子(劇団黒テント) 武者匠(劇団 短距離男道ミサイル) 中西星羅 山田宗一郎
映像   :北川未来
舞台監督 :横山弘之(有限会社アイジャクス)
リサーチ・アシスタント:斎藤明仁(上智大学)
上演アシスタント           :奥田知叡(京都芸術大学大学院)

企画協力:
Original Collaborator:Lim Yun Xin(作曲家・音響家/マレーシア)、Setsiri Nirandara (俳優/タイ)、曾景輝(振付家・コンテンポラリーダンサー/香港)、滝本直子(俳優/日本)
インタビュー協力:黄飛鵬(映画監督/香港)、Benjamin Ho(Paper Monkey Theatre/シンガポール)、Ladda Kongdach(Crescent Moon Theatre/タイ)、Sandee Chew(俳優/マレーシア)、桂薛媛元(立教大学大学院/中国)、黄丹丹(立教大学大学院/中国)、周浚鵬(俳優/台湾)、林孟寰(劇作家、演出家/台湾)、鵜澤光(能楽師・銕仙会/日本)、鄭慶一(ディレクター/在日韓国人3.5世)、崔貴蓮(韓服「蓮yeoni」/在日韓国人3世)、王侯偉(粵劇俳優/香港)

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【フォーラム】「多和田葉子の演劇」
日時:2021年10月31日(日)  13:00〜(開演15分前より受付・開場)16:30終了予定
会場:京都芸術劇場 春秋座 ホワイエ
登壇者:谷川道子(東京外国語大学名誉教授)、土屋勝彦(名古屋学院大学教授)、小松原由理(上智大学准教授)、谷口幸代(お茶の水女子大学准教授)、關智子(早稲田大学他非常勤講師)、斎藤明仁(上智大学)、和田ながら(演出家)、川口智子(演出家)+劇場実験出演者

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主催:
学校法人瓜生山学園 京都芸術大学<舞台芸術作品の創造・受容のための領域横断的・実践的研究拠点>2020年度劇場実験Ⅰ(延期分)「多和田葉子の演劇 ~連続研究会と『夜ヒカル鶴の仮面』アジア多言語版ワーク・イン・プログレス上演~」研究代表者:谷川道子
協力:公益財団法人 くにたち文化・スポーツ振興財団、上智大学 ヨーロッパ研究所

 

多言語の夢 ~『夜ヒカル鶴の仮面』上演に向けて~

川口智子(演出家)

 知らない言語を聴くのは楽しい。電車の中でも、道端でも、夢の中でも、慣れない音やリズム感が聞こえてくると思わず聞き入ってしまう。目を閉じて町の中を歩くのに似ている。触れたものが何かを知りたいというよりは、そのものに出会った感触だけを楽しむ。言葉が意味から離れて、音楽と声になる時。

 2012年ごろから想い描いてきた多言語の演劇と、多和田葉子さんの戯曲『夜ヒカル鶴の仮面』が結びついたのが2019年の夏。アーティストたちと稽古場で言葉を探しながら多言語の上演を目指そうと、タイの俳優・パム(Setsiri Nirandara)、マレーシアの音楽家・フィッシュ(Lim Yun Xin)、香港ダンサー・テリー(曾景輝)、そしてここ数年たくさんの上演を一緒につくってきた滝本直子と5人で京都で滞在制作をするプランをつくった。“劇場実験”という可能性の元に、めちゃくちゃに散らかった言葉のおもちゃ箱のようなお通夜の演劇をつくろうと思った。弔いの仕方を忘れてしまった人たちが、その言葉を探す旅。
 新型コロナウィルスの世界的な感染拡大を受けて、企画を2020年秋から2021年の秋に延期し招へいの可能性を待った。実現のためにはどういう状況を整えるべきか、京都芸術大学舞台芸術研究センターのみなさんの心強い伴走をいただきながら、アーティストたちと連絡をとり続けた。入国に向けての準備もしていた。しかし現状では日本に来てもらうことは難しいと判断し、今年の秋の上演に向けては国内にいるメンバーで制作をすることに決めた。不安定な状況の中で、企画実現に向けて動いてくれた企画協力者たち、紹介者の方々、そして多言語版プランを楽しみにしてくださり、国内版の上演に向けても応援のメッセージをくださった多和田葉子さんにあらためてお礼を伝えたい。

 結論をギリギリまで引っ張りながら、引っかかっていたのは“多言語”ということだった。この企画に掲げたキーイメージがこの1年半ですっかりその性質を変えてしまったことに戸惑っていた。私にとって多言語の演劇とは謎解きのような不思議な魅力を持つ遊びの演劇だった。わからない言葉、美しい響きの中でどこか違う方向に紛れ込んでしまってもいい、多和田さんの小説を読んでいる時のよう。ところが、今、多言語にはその朗らかな遊びのイメージがなくなり、代わりに人の属性を切り離して消費するような嫌なラベルのようなものがべったりと貼られたように感じて、息苦しく思うようになった。しばらく、このイライラが続くだろう。
 不安と息苦しさを抱えたまま、友人たちに連絡をとりはじめた。「ちょっとお願いがあるのだけど、今、多言語の劇の準備をしてるんだけどね、アーティストを呼ぶのが難しくなりそうで、それで、オンラインでお葬式と結婚式についてのインタビューをしたいのだけど……」とメッセージを送る。「結婚式場でカメラマンやってたって知ってた?」とか、「じゃあ、日本のごはんを画面越しに準備しておいてね」とか、そんな返事をもらう。東京で、沖縄で、香港で出会った人たち。どこか別の場所、たとえばシンガポールや韓国や台湾でまた会って、一緒にご飯を食べる人たち。行ったことのない部屋の風景を見ながら、近づけない距離を感じながら、知っていることを話してもらうというよりは、弔いという行為が何を必要としているのか、婚礼という行為が何を意味しようとしているのか、一緒に考える時間。町の中で結婚式を見かける? 通りかかったら何かすることある? じゃあ、お葬式は? お隣の人が亡くなったって、どうやってわかる?

 同時に、この「劇場実験」の醍醐味である研究者チームとのやり取りも活発になった。研究代表の谷川道子先生には企画全体を力強く引っ張っていただき、小松原由理さんと斎藤明仁さんのスピーディーかつスリリングな進行で、「多和田葉子の演劇」をめぐる研究会が始まった。オンラインで時を共にしながら、戯曲『夜ヒカル鶴の仮面』を解きほぐし謎を楽しむ。これから制作に取り組む俳優たちにも加わってもらい、通常の稽古開始前では考えられないほど多くの人と対話をしながら、このプロセスがもう「つくる場」になり始めている。

 ないものをつくろうとするうちに、つくっているのはつくる場そのものだったことに気づく。今、その場は、人の死と向き合うための弔いの場でもある。ひとつの言語だけではわからなくなってしまった弔いの言葉を探すのは生者の劇場かもしれない。


◇連続研究会◇

日時:
第1回 2021年8月4日(水)19時~21時
TMP(多和田・ミュラー・プロジェクト)の発足をきかっけとして、2019年くにたち市民芸術小ホールで、小山ゆうなと川口智子、2人の演出家が多和田葉子の戯曲のリーディング上演に取り組んだ。小山は、小松原由理がドイツ語から訳しおろした『オルフォイスあるいはイザナギ 黄泉の国からの帰還』、川口は、1994年に発表された日本語版の『夜ヒカル鶴の仮面』をそれぞれ上演し、各上演のあとに多和田葉子とともにトークを行っている。
第1回研究会ではは、秋のワーク・イン・プログレスに向けて、”大人の遊び”とも評された『夜ヒカル鶴の仮面』のリーディング上演を一部動画等でふり返りながら、多和田葉子の戯曲の世界に入っていく。【第1回の研究会レポートはこちらからお読みいただけます】

第2回 2021年8月25日(水)19時~21時
『夜ヒカル鶴の仮面』は1993年多和田葉子初の戯曲作品『Die Kranichmaske, die bei Nacht strahlt』として「シュタイエルマルクの秋」で初演され、その後、1994年に多和田自身の邦訳版が「すばる」に掲載された。多和田自身の手によるドイツ語版と日本語版の『夜ヒカル鶴の仮面』には、言語間の翻訳というだけでは説明しきれない多くの違いがある。第2回、第3回の研究会では、この2版の違いを手掛かりに、戯曲を読み込んでいく。【第2回の研究会レポートはこちらからお読みいただけます】

第3回 2021年9月13日(月)19時~21時
「「再読」行為の中で」と題する最終回は、翻訳や上演というプロセスを通して”再読”される戯曲『夜ヒカル鶴の仮面』の可能性を考える。多和田のエッセイ「身体・声・仮面――ハイナー・ミュラーの演劇と能の間の呼応」(『カタコトのうわごと』2007年、青土社)や、ドイツ語版初演である1993年のグラーツでの劇評などを手掛かりに、多和田が戯曲に仕掛ける謎を楽しむ。【第3回の研究会レポートはこちらからお読みいただけます】


登壇者:
谷川道子(東京外国語大学名誉教授)
小松原由理(上智大学准教授)
谷口幸代(お茶の水女子大学准教授)
關智子(早稲田大学他非常勤講師)
斎藤明仁(上智大学)
川口智子(演出家)
山田宗一郎(俳優)
中西星羅(俳優)
武者匠(俳優)

2回目ゲスト:
土屋勝彦(名古屋学院大学教授)

※各回の登壇者は変わる可能性があります。ご了承ください。

協力:(公財)くにたち文化・スポーツ振興財団
    上智大学 ヨーロッパ研究所


 

大学開学30周年記念・劇場20周年記念企画