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イングマール・ベルイマン作『ヴィクトリア』京都公演記念 『鏡の中の女』特別上映(@出町座)アフタートーク レポート
『ヴィクトリア』は、希望のメッセージ

大竹しのぶ主演、藤田俊太郎演出による注目の一人芝居『ヴィクトリア』。
映画人として名高いイングマール・ベルイマン(1918-2007)の台本を用いた本作の京都公演を記念して、2023年6月、京都・出町座にてベルイマン監督作品『鏡の中の女』の特別上映が開催された。6月26日の上映後のアフタートークには、演出家・藤田俊太郎が登壇。ベルイマンの仕事や、『ヴィクトリア』の見所・魅力について語り、京都公演への期待が高まった。

スウェーデンの映画監督、脚本家、舞台演出家であるイングマール・ベルイマン。映画史に大きな足跡を残し、舞台演出家としても数々の名作を手がけた巨匠に、藤田は10代の頃から影響を受けてきたという。「おこがましい言い方かもしれませんが、映画人でもあり、演劇人でもあるという、ベルイマンのバランスが非常に素晴らしいと思っています。早くからジャンルの垣根を超えてものを創ること、そして新たな価値観を創るということに意識的でした。興味深いのはキャリアの最後で、演劇に専念していること。演劇人として生涯を終えていることに、注目しています」。
藤田は、映画『鏡の中の女』と舞台『ヴィクトリア』が、ともに「女性の葛藤」や「雄弁と沈黙の往復」などのモチーフを扱っていると紹介。また「神なるものや対峙すべき巨大なるものが崩壊した時代の喪失感と向き合っていくことが、ベルイマンのテーマ。それが個人の美しさに集約されていく。特に女性の内面に、ですよね」と語った。

こうしたベルイマンの作品世界を、日本演劇界屈指の実力派俳優である大竹しのぶが演じるのが、今回の『ヴィクトリア』である。藤田は、日本初演となり、世界的にもあまり上演されていない本作の台本について「人生の暗部を覗き込むような暗さばかりではなく、実は喜劇的な要素、面白おかしくチャーミングなところも、たくさんある魅惑的な作品」と話した。一方、東京・スパイラルホールで開幕し、大きな反響を呼んでいる舞台に触れて「大竹しのぶさんが約1時間10分間、語り続けます。何ものにも代えがたい劇場体験をわれわれにもたらす大竹さんという俳優の生きざまを観ていただける作品だと思います。実際、お客様は本当にすごい集中力で観てくださっています」と手応えを口にした。
20世紀を生きた「ヴィクトリア」という一人の女性。その生涯の情景が、台本には年代順ではなく、イレギュラーな時系列で書き込まれ、さらに膨大の数の人物が想定されているシーンもある。そうした台本と向き合い、「大竹さんはヴィクトリアの周りに、何百人もの人物がいるように演じ分けています。舞台で演じる俳優が一人とは全く思えず、非常に豊かに語っている。それが台本に対しての演劇的な回答になっていると思います」と演出家は振り返った。

参加者からの質問に丁寧に応じたのち、藤田は『ヴィクトリア』京都公演を見据えて、次のように語った。「ベルイマンが描きたかったのは、徒労感や絶望感ではなくて、未来に向けたメッセージなのではないか。それは生きる、生き続けるということです。人生にはつらいこともありますが、悲しみと喜びは表裏一体。明るい未来に向けた希望のメッセージを、ベルイマンは豊かに残しています。そして、それを稀代の俳優である大竹しのぶさんが、全身全霊で演じる。本当に見逃せない作品だと思います」。
アフタートークは、『ヴィクトリア』という作品の奥深さを垣間見ることのできる、充実したものとなった。京都公演は、ベルイマンの仕事を演劇の側から見つめ、そして大竹しのぶの演技の力に直に触れることのできる貴重な機会となるに違いない。ぜひ会場の京都芸術劇場 春秋座に足を運び、「希望のメッセージ」がどのように舞台に立ち上がるのか確かめてほしい。

文:新里直之(演劇研究)

シス・カンパニー公演
『ヴィクトリア』

日時:2023年7月8日(土)14:00
日時:2023年7月9日(日)14:00
会場:京都芸術劇場 春秋座

作:イングマール・ベルイマン
翻訳:肥田光久
演出:藤田俊太郎
出演:大竹しのぶ
※7月8日14:00の回は、大竹しのぶさんと、ゲストの八嶋智人さんによるアフタートークが開催されます。

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