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鼓童 住吉佑太さん、韓国太鼓演奏家 チェ・ジェチョルさんに聞く 鼓童『山踏み』インタビュー

2024年の鼓童公演 『山踏み ~踏み鳴らす、大地の鼓動~』 は、韓国太鼓 (チャンゴ) 演奏家のチェ・ジェチョルさん (崔在哲・写真右) をゲストに迎えた特別共演作品です。
チェさんの提唱する 「歩みの中から生まれてくるリズム」 を探求するべく、演出の住吉佑太さん (写真左) を筆頭に出演者、時にチェさんと共に約1年かけて佐渡島一周 (約280キロ) をたたきながら歩き、舞台を創り上げるプロジェクトでもあります。
佐渡の海岸を歩き、山を登る。日々異なる風の音、海の音を聴き、自然の匂いをかぎ、島の地面を踏みしめる。そこで起こる重心の上下運動や緩急、筋肉の緊張と緩和の連続により生まれてくる鼓童のリズムをあぶり出す作品です。
この鼓童の最新作 『山踏み』 について、本作の演出を行う住吉佑太さんとゲストのチェ・ジェチョルさんにお話しをうかがいました。
聞き手:舞台芸術研究センター 写真:鼓童 

 

誰もが本能的に惹かれるリズムやグルーヴ

― 住吉さんは2021年に春秋座で上演された 「鼓童ワン・アース・ツアー2022〜ミチカケ」 では音楽監督をされておられましたね。あの作品は鼓童にとって新しい扉を開けたような感じがして、とても印象的でした。ご自身としては鼓童でのキャリアが12年目になるわけですが、今、特に興味を持っておられること、力を入れておられることはありますか。

住吉 常に僕の中で興味のあるものが二方向あるんです。一つは 『ミチカケ』 のような前衛音楽的なこと。それはずっと興味を持ち続けてきた部分ですね。自分でも、普段の鼓童の音楽とは異なる前衛的な実験音楽をベースにした 「0on」 というカセットのレーベルを鼓童で立ち上げたり、作曲家でミュージシャンの日野浩志郎さんと一緒に作品を作ったり。そういう前衛的・実験的なことを追求する興味は常にあるのですが、それと同時に真逆の、もっと土着的なものにも魅力を感じています。
それは常に自分の中で並行して存在してる感じですね。 中でも全国各地にある郷土芸能、 世界中にある民族芸能で使われるリズムの起こり、 音楽の起こりについてもとても興味があります。
今回の 『山踏み』 という作品は、そういう意味で 『ミチカケ』 の正反対にある土着的な作品になるのではないかなと思っています。土着といっても特定の郷土のものではなくて、人間だったら誰もが本能的に惹かれるリズムやグルーヴ、そういったものですね。
それでチェさんが提唱されている 「歩みの中から生まれてくるリズム」 を通して、鼓童としてのリズムやグルーヴを探求しようと、僕たちの郷土である佐渡島を一緒に歩いているわけですが、歩いてみると日々いろんな発見がありますね。

― チェさんは大阪生まれ、東京育ちの在日コリアン3世でいらっしゃるわけですが、韓国の打楽器・チャンゴの演奏を始めたのは大人になってからなんですね。楽器を演奏するきっかけは何だったのでしょうか。

チェ それはビョーク (Björk : アイスランドの女性シンガーソングライター) ですね。
僕、大学を卒業したら自分で会社を作って服屋さんをやろうと思っていたんです。ですがそれがダメになってしまったんですよ。それで 「これからどうしよう」 と思いながら家でビョーク主演の映画 『ダンサー・イン・ザ・ダーク』 を観たんです。あの映画、内容はとても重いんですけれど、音楽がすごくリズミカルじゃないですか。1日3回ぐらい観ていたら、なんだか分からないけれど気持ちは落ちているのに映画の中の音楽と一緒に踊っていたんです。


その時、 「あぁ、 そういえば子供の頃、お父さんやお母さんに連れられてサムルノリとか観に行ったな~」 と思い出したんですね。それで実家が新大久保なので、近所のCDショップに行ってサムルノリのCDを買って聴いたら、全ての憑き物が落ちた感じがしたんです。それで 「これをやろう!」 と思ったんですよ。早速、翌日、チャンゴを買いに行って、そこからあまり人生は変わってないです。

― CDを聴いた時にチャンゴの音に強烈な衝撃を受けたんですね。

チェ なんていうんだろう・・・・・・、ひょっとしたら細胞レベルの事かもしれないですね。逃げ場がなくなっている状態でCDを聴いたものだから、チャンゴをやらないと解 (ほど) けないというか、そこに救いを求めたというか。楽器の音に祈りを求めたという感じです。ただ、その場から助かりたいという思いで聴いたんですね。

―  チャンゴはどうやって演奏するんですか。

画像提供:チェ・ジェチョルさん

チェ  特徴としては太鼓に付けたさらし帯2本を体に巻いて、体と太鼓を1つにするんです。ですから動きながら、歩きながら、踊りながら叩ける太鼓です。

― 固定してるから、それができるんですね。

チェ そう。そうするとリズムも体の動きも躍動的になるんですよ。その躍動的であることが韓国太鼓の一番の特徴ですね。

― チェさんは、かつて京都の老舗帯問屋・誉田屋源兵衛の1階にあった韓国伝統茶や薬膳料理の茶房 「素夢子 古茶家」 で、舞踏家の田中泯さんと共演されているんですね。

チェ まさにその時が僕の転機であり、その後のスタイルができた感じですね。
泯さんは普段、若い太鼓打ちとのデュオはあまりされない方なのですが、僕が誉田屋さんに 「泯さんと何かやって」 と言っていただいたことから、じゃあ、という感じでやってみたんです。当時、僕は27か28歳でした。
僕のチャンゴの先生は韓国で修行を積んだ在日コリアンの方だったので、先生から習ったものを泯さんの前で提示したのですが、その時、それが一切、通じなかったんです。本番が終わった後、すごくショックで。泯さんから 「あなたは何を考えてるのか。 習ったものではなくて、あなたの思ってるものをその場で出しなさい」 と(舞台上で)言われたように感じました。
それで泯さんは今までどんなことをされてきたのだろうかと足跡を調べてみたんです。すると踊るため、生きるためには水が必要である。ならば自分で井戸を掘り、自ら水を確保するところから始めている。 「生きる」  というところと踊りをリンクアップさせて独自の踊りを作っているんですね。


その時、僕が演奏しているチャンゴは朝鮮半島の太鼓ではあるけれど、これは一体何者なのかと考えたんですよ。ルーツをたどっていくと2000年ぐらい前のインド。今はドール(dhol)とよばれる布を付けて担いで叩く太鼓があるのですが、その太鼓が形を変えながら最終的に大陸の一番東に行ったのがチャンゴだといわれています。
楽器としては定住して演奏をするというより、哲学や思想など色々な想いを伝えながら放浪して演奏していたということを知ったんです。ということは自分も歩かなくてはならん。とりあえず、おじいちゃん、おばあちゃんの出身地であり、自分のルーツタウンまで歩いてみようと思ったわけです。

― それが、チェさんが続けておられる、チャンゴを叩きながら歩く 「Chango Walk(チャンゴウォーク)」 になるわけですね。

チェ そうなんです。それでまず2009年に東海道五十三次を歩きました。翌年は京都から博多まで西国街道を歩いたんです。その間、いろんな人と出会いましたし、山や川などの自然やアスファルトなどの感覚が記憶として体の中に残りました。そして、2015年に僕のルーツタウンである釜山から150キロぐらい上がった星州まで東京から歩いていったんです。

― 東京から釜山の150キロ先まで??

チェ さすがに海は無理ですけれどね(笑)。
僕が叩いてる韓国太鼓のリズムは300年、500年前のリズムといわれていますが、そのリズムを理解するためには、まずリズムが生まれた当時の人たちの生活様式を一回、真似してみたいと思うんです。当時はお金持ち以外、基本的に移動は徒歩ですからね。それで当時の人と同じように歩いてみると、面白い発見がありました。それを今、鼓童のメンバーたちに伝えまくってるという状況です。

―  そんなチェさんと住吉さんの出会いは何だったのでしょうか。

住吉 元々、チェさんという大変面白い人がいることは聞いていて、しかも絶対、話が合うよとまわりのみんなからも言われていたんです。それで2021年にチェさんが1人で佐渡島1周に来た時、家に寄ってくれたんですよね。そこで色々話したのが最初の出会いです。

チェ ちょうどコロナ禍だったんですよ。当時、僕も東京の家から外に出れなかったのですが、鼓童のみなさんもそうだったんですよね。それはミュージシャンだけではなく社会的なことだったわけですが、「内に籠る」というのはイコール  「物事を考える・感じる」 という大事な時期でもあると思ったので、前から知り合いだった鼓童のメンバーに相談して今、鼓童の仲間たちが何を考えてるのかを体感させてほしいと佐渡島に入ったんです。
加えて僕は 「その土地と出会う」 ということを大事にしてるから、着いてから 「とりあえず佐渡島を一周回るわ」 といって歩いたんです。もう歩かないと気が済まないんです(笑)。それで佐渡島一周210Kmを歩く中で、佑太君の家に行ってお話をさせてもらったんですね。

―  そこから今回のコラボレーションへはどのように進んだのでしょうか。

「和太鼓フェスタ~冬祭~」2023年2月26日(日) 開催 会場:星の里いわふね  撮影:足立雅子

住吉 ちょうど昨年の2月のことですね。元鼓童研修生で現在、太鼓奏者として活動されている佐伯篤宣(あつのぶ)さんが、毎年、大阪府の交野市で 「和太鼓フェスタ~冬祭(ふゆさい)~」 いうのを開催しているんです。ちょうど去年が10周年ということでゲストに鼓童を呼んでくださいまして、そこにチェさんもいたんです。本番前にちょっとリハで合わせて、すぐ本番みたいな感じだったんですけれど、それが人前で行った初コラボレーションですね。
なおかつ、その時に佐伯さんとチェさんが一緒になって作った 「サエキ囃子」 という新しい郷土芸能も披露していたんです。その芸能にめちゃくちゃ魅力を感じたこと、そして10年やってきたことで 「冬祭」 が地元に根付き、一つのコミュニティができているのを目の当たりにして、活動としても素晴らしいなと感銘を受けたんです。それで打ち上げの時に「僕、チェさんを鼓童に呼んで、サエキ囃子をやる作品をやりますわ!」 と言ったことが、本当になったっという感じですね。

― ということは、今回の『山踏み』の中で「サエキ囃子」もやるということですか?

住吉 やります。 「屋台囃子」 や 「三宅」 と同じように 「サエキ囃子」 をやります。とはいえ 「サエキ囃子」 ができたのは新しいんですよね。 今年で何年目ぐらいですか?
※「屋台囃子」「三宅」は日本の郷土芸能を元にした鼓童のレパートリー曲

チェ 4年目です。 「サエキ囃子」 ができたのはコロナ禍で、先ほども言ったようにミュージシャンや芸能活動をやってる人たちは、みんな悩みのどん底にいたと思うんです。
そんな時、佐伯君が 「俺らが旗をあげないと地元の力が弱くなる」 と立ち上がり、ホールで太鼓を演奏するのではなく、こちらから市中に出向いて練り歩き、道端で演奏を見てもらうスタイルにしたらどうだろう。それならコロナ禍でも大丈夫でしょう、という強烈な思いを持って作ったのが 「サエキ囃子」 なのです。

大阪府交野市のサエキ囃子

とはいえ新しく郷土芸能を作るのは難しいですよね。それで佐伯君から話をいただいてアドバイザーとして参加したんです。そして(二人で?)市中を練り歩きながら門付けする芸というのは一体、何なんだろう。 誰かが亡くなった時に供養する芸能はどういう意味を持って行えばいいんだろうというのを一つずつ、考えながら作りました。
それを昨年の「冬祭」で 佑太くんが見て、 「これ最高! 面白いね 」と言ってくれたんですよね。

 

人類が共通で持っているリズム感

― 住吉さんから見たチェさんの演奏やチャンゴという楽器の面白さはどういうところにありますか。

住吉 実は2014年ぐらいからサムルノリや韓国の音楽が面白いなと思うようになって、憧れがあったんです。でも音楽だけを聴いてもなんて叩いてるかが全く分からない。チェさんと初めて会ってセッションした時も、なにを叩いてるか全く分からなかったんです。なんというか西洋音楽的な発想では、正しくは理解できないという感じですね。
やっぱりミュージシャンなので、バンッと音が来た時に一瞬で楽譜的に理解しようとするんです。 「これは3拍目の裏に音が来るんだ」「これは2拍目が休符になっているんだ」  と瞬時に考えてしまうんですけれど、チェさんのリズムはそれができないんですよ。 それがすごく衝撃で。そんなこともあってサムルノリやチェさんのリズムを理解するにはチャンゴを習って、一緒に韓国のリズムをチャンゴで叩くしかないと思っていたんです。
けれどそうじゃなくて、チェさんと一緒に歩く。しかも韓国のリズムを教わらずに一緒に歩くだけで、チェさんがなにをやっているか分かるようになったんです。

しかも西洋音楽のリズムは、テンケテンケテンケテンケという 「スイング」 と、テンテンテンテンテンテンテンテンという 「ストレート」 は完全にセパレートしているという考えで譜面を書きますし、スイングしているバッキングに対して、ストレートなリズムをぶつけていくことは意図的でなければ、ほぼ無いわけです。でも本来、音楽っていうのは、そんな風に二極化されるべきものじゃないと思うんですね。でも譜面から音楽がスタートするので、どうしても二極化されてしまうとことに対してジレンマを感じていたんです。
ですが歩きながらリズムを出すと共通のグルーヴが生まれてくる。スイングでもないし、ストレートでもない。その境目が無くなってくるのがすごく面白いんです。行ったり来たりできるし、さらに両方を一緒に演奏できる。なんなら3拍子と4拍子、5拍子を同時に演奏しても大丈夫という面白さがあって、そこに音楽の、リズムの根源を見る感じがしました。
この夏にベン・アイロン (Ben Aylon) というセネガルの太鼓に倒しているイスラエルのドラマーと一緒に作品を作ったので Earth Beat Project 2024 、今日も歩きながらセネガルのリズムをいくつか叩いてみたのですが、やっぱりリズム感がチャンゴと同じなんです。それは大きな発見であり、ずっとそうあってほしいなと思っていたことでもありました。その時に僕が感じた、「地球の音楽はやっぱりこのリズム感だよね! 」 という面白さを 『山踏み』 で皆さんにお伝えしたいですね。
文化圏が違っても同じ地球上で、同じ重力の上で音楽をやってると結局、 同じになるというのが面白いなと。それが国を超えるというか、人類が共通で持っているリズム感なんだなと思いました。

― チェさんはいかがですか?

チェ 僕は韓国太鼓演奏家なので韓国のリズムだけを演奏すると思われたりしますが、僕自身、チャンゴは特に韓国のものだと思っていないんですよね。ただの太鼓。たまたま、その太鼓が朝鮮半島らへん、韓国らへ辺りにあったというだけなんですね。
僕も昨年、ベン・アイロンさんと知り合って、この間、セネガルに行っていたんですが、やはり韓国のリズムとよく似ているんです。何がどう似てるとかは未だによく分からないんですけれど、なにかが似ているんです。
僕が一番大事にしてるのは  「歩く」  こと。歩くと動くから、何かも動くんですよね。そのベースになる「歩く」ことにフォーカスを当てて太鼓を叩いているのですが、それはアフリカの人たちも、佑太くんも、鼓童も韓国の人たちも似てるところがあって、共演するにあたり、そういう似ているところを一緒に探してみたいなと思いっています。そして国の境を超える、地球は一つであるという鼓童の  「ワン・アース」  的な考え方、やっぱり僕、すごく好きですね。
これは韓国のものである、これは日本のものである、これはアフリカのものであるという境界線を一回、超えてみて 「え、それ一緒じゃん!」 というような共通点を見つけながら、みんなで語り合えれるものを探してみたいなと思っています。

 

鼓童が大切にしてきたグルーヴ感を探し出す

Photo by Tomohiro Yonetani

― そこで今回、 『山踏み』 を作るにあたり、出演者の皆さんが一年かけて佐渡島一周を歩く 「タイコウォーク」 を行っているわけですね。

住吉 今日も21キロ、6時間ぐらい歩いてきました。チェさんの 「土地を歩く」「土地と出会う」 というのがとても面白かったので、『山踏み』 は、 「歩くことでもう一度、リズムを捉え直す」 ことをテーマにしています。
フルメンバーが揃うことは難しいので参加できる人だけ集まって歩くスタイルですが、今日はチェさんを入れて4人で歩きました。佐渡一周線といって海岸沿いを走る道がありまして、基本的にはその道を歩いています。一周なので、ずっと左側に海があるんです。

― 参加しているメンバーからフィードバックはありますか。

住吉 たくさんありますよ。今日は新山萌と一緒に歩いたんですけれど 「新しい世界に行きました」 て言っていました(笑)。

― ! どういうことですか。

住吉 歩きながら何時間も叩くので、だんだん自分が何を叩いているのか分からなくなってくるんですよ。でも、そこからがすごい面白いんです。脳みそで考える余白がなくなってくる。そうすると何でお互いのリズムが合ってるかも分からなくなるんです。
みんな夫々、別のリズムを叩いているのに 「あれ? なんでリズムが合っているんだろう」 みたいな感覚が生まれてくるんですよ。そういう経験をするのがすごい大事ですよね。萌はそれを面白がってくれたので、よかったなと思いました。    

― 今回は 「歩くことでもう一度、リズムを捉え直す」 がテーマとのことですが、前二作 『巡 -MEGURU-』『ミチカケ』 経て、住吉さんにとって新しい挑戦はありますか。

住吉 『巡 -MEGURU-』 というのは土着的なものを、西洋音楽的に捉え直すことで今の人たちにも馴染み良く聴いてもらえたらという思いで作った作品です。
一方『ミチカケ』は、太鼓の中から土着性・郷土性のようなものを排除したら、どうなるんだろうという実験だったんです。土着的なものや郷土芸能の中からは人々の営みのようなものが見えてくると思うのですが、それをすっかり無くすと逆にその奥にある、なんていうか自然や宇宙感みたいなものが出てくる感じがして。それが 『ミチカケ』 のコンセプトだったんです。
今回の 『山踏み』 は、再び人々の営みの方に戻ってきたという感じです。 『巡 MEGURU-』 も 『ミチカケ』 も長い期間をかけて作ったのですが、実は 『山踏み』 は、まだ内容を何も作ってなくて。しかも出演者全員が揃って稽古ができるのは3日間しかないんです。ですから今は、とにかく経験を積む。今回は作品の下地部分を一生懸命に作ってみるのはどうかと思ってやっています。先の二作品のようにきっちりと作り込まず、ある意味、粗雑な、粗暴な構造にしておきながらも、そこにこれまで歩いてきた経験や実感が隙間から見えてくる作品になったらいいなと。

― 今は出演者全員の共通経験を作っているところなのですね。

住吉 そうですね。ですから稽古場で音楽を作るのではなく、外を歩き回って、それぞれが経験することで生まれてくるものを大切にしたいと思います。
今回は鼓童の既存曲もありますが、ほとんどが新曲で、基本的には僕が曲を作っていますが、実はまだ作ってる最中なんです(笑)。歩みから生まれた曲でないと意味がないので 、今回は机で考えた曲は極力無くしたいと思っているんです。今日も歩いている途中で曲が生まれましたが、歩きながらリズムを叩いてみると見えてくるものがたくさんあるんですよね。

 

西洋音楽的なアプローチではたどり着けないところ

Photo by Tomohiro Yonetani

― 今回は、どういう風に曲を作っていくのだろうと思ったのですが、そのために一緒に「歩く」んですね。

住吉 これはチェさんが僕に言ってくれたことでもあるんですけど、 「歩きながら太鼓を叩く時のリズムは自己発生型だよ。自分の中から湧き出てくるリズムでいい」 と。だから、 「こういう韓国のリズムがあるから、これを叩いてみよう」 ではなくて、自分の中から湧き上がってきた、自己発生型の、 自分から出てきたリズムを叩いてみるのがとても新鮮ですね。
どうしても作品を作るとなると 「この曲をやってみようか」 とか 「このリズムを叩いてみようか」 と作ることの方が多いんですけど、そうじゃなくて 「歩いてみて自分からどんなリズム出てくるか。それを一回、自分で探ってみよう」 と最初にチェさんに言われたんです。 なので自分から自己発生的に出てきたリズムは何か、それを問うてみるところから作品を作ってみようと。
楽譜で曲を作ると、みんなに楽譜を渡して、譜面を確認して、それをバンって合わせて作ることになります。もちろんそういう作り方もあっていいとは思うんですけれど、今回はそれよりも、もっとそれぞれの内面から出てくるものを大事にして作りたいなと思っています。ですから言い方を変えたらノリだけ合っていて自由にやるような即興が多くなると思います。でも、みんなで歩いて培ってきた共通のグルーヴ感みたいなのがあるから気持ちよく聴ける。そういうところを狙ってるんです。とはいえそればかりではなく、メリハリをつけた構成にしたいなとは思っています。

Photo by Tomohiro Yonetani

チェ 補足になってしまうんですけど、僕が見ているのは、どんなリズムを叩くか、踊りを踊るか、どういう歌を歌うかという表現の部分よりか、その人の体付きですね。
太鼓という楽器と自分の身体がセットになって地面の上に乗っているわけですが、その体付きで楽器と地面と、どう遊んでるのかというのを見ています。僕のよく使う言葉に 「音楽的な生き様」 というのがあるのですが、そういうものをひたすら感じ取ろうとしています。
今日も歩いていて、そうだったんです。2拍子とか3拍子、4拍子、5拍子という誰かが作った型枠ではなくて、同じリズムでもその人の体付き、歩幅、歩く速度でリズムの捉え方が異なることに、みんなが 「おお!」 ってなるんですよ。それを 「そういう感じですか!」「面白いですね」 って言いながら歩幅を真似たり、逆に真似せずに自分の体つきのままでリズムを出したりする。とても自然体なことですよね。

― 歩いていると、だんだん体も変わってくるのかなと思ったのですが。

住吉 めっちゃ変わります。体というより太鼓と体の関係が変わりますね。
僕らもチェさんと同じように太鼓を担いで歩くんですけれど、チャンゴと少し構造が違うので、足早に歩きながら叩くのにはあまり向いていないんですね。でも長い距離を歩きながら叩いていると、太鼓と体の重心の取り方が上手くなってくるんです。
最初の頃は太鼓が太ももに当たるのでアザができて真っ青になっていたんですが、今日は青くなっていなかったので、体が自然と太鼓が当たっても痛くない位置を探し出していく感じですね。 結果的にその積み重ねで体と太鼓の関係がすごく良くなってきているなと思います。 北林玲央も歩き始めてからフォームがすごく変わりました。
みんなも太鼓との関係が変わったと言っているので、それはとても嬉しいなと思います。

― ありがとうございます。
最後に春秋座にお越しになる皆様に見どころを教えていただけますでしょうか。

住吉 今回はチェさんと一緒にツアーをやるのですが、ツアーでゲストを呼ぶのは鼓童として初の試みなので、ぜひそこを注目してもらいたいのが一つ。
それから何度もお伝えしてるように、みんなで 「韓国の音楽」 をやってみようというものではないんです。音楽やリズムの起こりみたいな深いところを追求しながらも、パワフルで本能的な舞台なること間違いなしなので、ぜひ お見逃しなく!

チェ 今回、佐渡に住んでいる鼓童のメンバーたちが実際に佐渡を歩いて道端で太鼓を叩き、佐渡のいろんな景色を見たり、風の音を聞いたり、足で地面を踏んだりして佐渡をものすごく感じとったと思うんですよね。
それが舞台の中で結晶となってどう表れてくるのか。それをどうぞご期待ください!

― 佐渡が滲み出てくるわけですね。

チェ そう! まさにメイドイン佐渡の音楽ですね。

― 春秋座が立っている京都芸術大学は、瓜生山という山の中にあるので公演前に山踏みに来ていただきたいです!

チェ ぜひ、行きたい! 

― 劇場にいらっしゃった時ご案内しますので、ぜひ山踏みをお願いしたいです。お待ちしております。そして公演、楽しみにしております。どうぞよろしくお願いします。