1. HOME
  2. 読みもの
  3. 俳優としての今とこれから 卒業生 等々力静香さんインタビュー 

俳優としての今とこれから
卒業生 等々力静香さんインタビュー 

 

2026年1~2月、東京・京都・岡山で上演された COCOON PRODUCTION 2026『クワイエットルームにようこそ The Musical』※1(以下『クワイエットルーム』)でチリチリ役などを演じた等々力静香さん。
2024年3月に京都芸術大学 舞台芸術学科 演技演出コースを卒業。卒業直前に本学の社会実装プロジェクトの一環である「松尾スズキ・リアルワークプロジェクト」※2 にサポートメンバーとして参加、その後Bunkamura主催 COCOON PRODUCTION『コクーン アクターズ スタジオ』※3(以下CAS)1期生として活動し、現在は1期生有志と松尾スズキが結成した新ユニット「ブルードラゴン」としても舞台に立っておられます。出演だけでなく、演出や作品づくりにも意欲的に取り組む等々力さんにお話を伺いました。
聞き手:舞台芸術研究センター 所長/同教授 安藤善隆

 

臆せず、ガムシャラにやりました

― 等々力さんは、これまで大学やCASで演劇を続けてこられましたが、今回『クワイエットルーム』でプロで活躍されている俳優の方々と初めて共演され、どんな点に違いを感じましたか?

等々力 「本読み」の時点で皆さんアイデアを持っていて、形になっているものを出してきていると感じました。それと同時に、それを無意識にやっているのだろうというのも感じられて。私はまだ、「本読み」の時は色々考えてからでないと、松尾さんや演出家の方々を納得させることはできません。だから、一線で活躍されている方々の凄みを感じ、本読みの時はずっと「やっべー」って思っていました。

― 松尾さんは、「本読み」の段階から本気で取り組むということを大切にされてるので、それを強く感じられたのだと思います。

等々力 たとえば、『クワイエットルーム』の墨田を演じる皆川(猿時)さんの最初の長台詞は、私には全く考えられない読み方でした。どこを伸ばして、どこを切って、どこを大声で発するのか…。臆せずやらないと「自分はここまでやな」と思って、ガムシャラにやりました。

― 等々力さんは今まで、卒業公演で蓬莱竜太さんの作品を企画・演出されたり、海外の戯曲も読んだりしてこられたと思うのですが、松尾さんの作品は、等々力さんにとってどういう位置づけにありますか?

等々力 私は高校時代まで、いわゆるストレートの演劇作品は全く見てこなかったんです。初めて劇場で観た松尾作品は、大阪のオリックス劇場で上演された『フリムンシスターズ』(2020年、松尾スズキ作・演出)でした。私は観劇する時、演出の意図や俳優の表現方法をいつも考えてしまうのですが、この時は考える隙がなく、ピュアに演劇作品を楽しめたことを覚えています。「間違った指図にヘラヘラ笑いながら自由を差し出すのはうんざりだ!」というセリフを待ち受け画面にするくらい衝撃を受けたんです。当時はコロナ禍でマスクをつけていて、笑ってはいけないという雰囲気だったのですが、松尾さんの大人計画のファンの方も含めて客席も、舞台上の俳優の皆さんも皆が松尾さんに魅了されているのを感じた素晴らしい公演だったのを覚えています。

 

お客さんに観てもらって、やっと掴めた感覚

― 大学在学中に松尾スズキ・リアルワークプロジェクトに参加した時はどうでしたか?

等々力 サポートメンバーとして途中から参加したので、私は松尾さんの演出を直接受けることは少なかったのですが、松尾さんが後輩達へ演出する姿を見ながら、その演技ではないというのはわかるのですが、松尾さんのディレクションに応えるための演技の引き出しが足りてないことを痛感していました。

― CASに行き、ブルードラゴンでの活動を重ねる中で、分かってきましたか?

等々力 少しずつですが分かってきた気がします。おこがましいですが(笑)。私は笑いを見るのはもちろん好きなんですが、どちらかというと漫才やバラエティを見て育ってきた方で、コントはあんまり見てこなかったんです。芸人さんがするコントと俳優がするコントが違うこともCASの講師である俳優のオクイ(シュージ)さんからも学びました。最初は何を参考にしたらいいかも分からず、とにかくやってみるしかないという感じでした。
笑いに関して言うと、関西の笑いと東京の笑いの違いもあります。周りが面白いって言ってることが全然面白くないと感じることもありました。感覚がつかめたのは、CASの発表公演『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―』(2025年、松尾スズキ作・音楽、杉原邦生演出・美術、以下『アンサンブルデイズ』)の本番でした。ここが面白いんだとか、この間で受けるんだとか、その日のお客さんに合わせてセリフの間や言い方が変わるということを実感しました。
『アンサンブルデイズ』で、青山(役:伊島青・森本彩日)と2人でオーディションの話になるシーンがあるんですが、初日は全く受けなかったんです。その場面を本番期間中、この間と速さで言ったら受けるかも…という風に試していたら、徐々に笑いの量が増えていって千秋楽では受けました。そういう「生きてる言葉」でパンって笑いをとる経験が、今回の『クワイエットルーム』でも活きているなと思います。お客さんに見てもらって、やっと感覚が掴め始めました。

― 松尾さんがよくおっしゃっている「経て経て」―つまり、場数を踏み、受けなくて恥をかくことも―こうした経験が、『クワイエットルーム』に活きていたのだと舞台を拝見して感じました。

等々力 ありがとうございます。松尾さんの作品に関わるようになってから、少しずつ、松尾スズキ作品を正確に読めるように、どこにドラマが込められているのか見えるようになってきました。同時に、俳優として意外性はなくなるのかもしれないとも感じています。松尾さんの思った通りに読み過ぎても良くないとも感じていて…。
そういう意味では、普段松尾作品に出演されていない咲妃みゆさん、松下優也さんや他の方々を見て、「そう読むんだ」と感じる瞬間がありました。そうすると松尾さんが喜ばれる。稽古中に松尾さんが笑っている姿もよく見ました。

― 松尾さんは、そんなことも含めて劇団以外の方々と舞台を共にされ、「ブルードラゴン」というユニットを一緒にと思ったのかなとも思います。

 

 

演劇が好きで、劇場が好き

― 等々力さんは、これまで俳優として掴んだものはたくさんあると思うのですが、これから舞台の上に立つ中で、何を大切にしていきたいと考えていますか?

等々力 このままでいたいです。このままの自分で進んでいきたい。演劇が好きで、劇場が好き。
「ただ芝居がしたいから」ではなく、劇場を良い空間にしてお客さんを楽しませることが第一です。
だから、舞台芸術に携われるなら、正直役者にはこだわらないです。どんな役職でもいいから良い作品を届けたい。でも、この思いを口にすると誤解されたり、失礼に感じられることもあるという自覚もあります。それでも、自分に適した役(割)があるから出ているという気持ちをずっと守り続けたいです。

― いい言葉ですね。

等々力 そういう意味では、これからも面白い作品に出たいし、私が携わるからには面白い作品にしたいと思っています。
松尾さんの戯曲は、松尾さんの人間性が作品に出ているんですよね。私は松尾さんのエッセイもよく読むんですが、「もしかしてこの出来事、フィクションとしてあの作品に描かれているのかな」と思うこともあります。自分に起こった出来事を喜劇化して、笑って生きようとしているところがかっこいいなと。演劇やアート、自分の創造に打ち込むことで、その渦に飲み込まれないようにしたり、逆にその渦に飲み込まれてみて何かが生まれる感覚…。そういう自身の生き方を客観視した創作の仕方は本当に素敵だなと思うし、私と重なる部分もあります。
その一方で松尾さんは、ぼんやりと考えていたけど気づかなかったこと、無意識に考えていたけど忘れていたことを、パーンと書かれるので、「うわ、そうだ!」って刺激を受けることが多いんです。「共感」とは違っていて、「発見とともに共感」のような感覚です。

― 松尾さんは、まず「作家」として、ご自分の考えや経験を言葉にできますよね。その上に、しっかり観客に届くセリフとト書きが書くことの出来る日本で稀な「劇作家」。さらに、自分と俳優と観客の関係を舞台を通して俯瞰してみることが出来る「演出家」。それらが揃うところが松尾さんのすごいところだと思います。だからこそ、多くの人が松尾さんの演出を受けたいと思うのでしょうし、等々力さんはその波長が合うのだと思います。

 

人が救われる場所

― 等々力さんは作品を書いたり演出もしたりしておられますが、今後も作・演出は続けたいと思っていますか?

等々力 やりたいと思っています。私は、演劇が好きという気持ちはもちろんあるのですが、大学を卒業し上京してから、アート・クリエイティブが自分のすぐそばにないとしんどいと感じることが多々ありました。演劇はアート的側面がある一方でエンタメ的側面もあり、その比率は作品によって様々。だから、アートをずっと演劇から出演者側で摂取することは難しいと思ったんです。
その気持ちがあって去年、KIGAKARI『辛面つらつら』という二人芝居を自分で書いて、(同じくCAS 1期生の)羽衣と一緒にやりました。出演する楽しさももちろんあるのですが、出演する自分と書いて演出する自分は、まるで別人です。たまにクリエイティブな自分を呼び起こさないと、生きてる実感が持てない、血が薄い感覚になることもあります。だからこそ、これからも年に1本は小規模な作品を作っていきたいと思っています。公演後のアンケートでも、「ずっと考えていたけど、言語化できなかったことを言ってもらえて救われた」と言ってくれる同世代の方が多くて。創作は続けていきたいし、そうやって人が救われる場所が劇場だと思っています。
今は俳優という核があって、お客さんと一緒に作品をつくることを勉強・体感している最中で、演出や作演は気まぐれでやっている程度なのですが、いつかは松尾さんのように作・演出したり、大規模に公演できるようにしていきたいと思っています。

― ありがとうございました。頑張ってください。

等々力 ありがとうございました。

 

 


※1 『クワイエットルームにようこそ The Musical』
精神病院の閉鎖病棟を舞台に、個性的な患者たちとの日々を描いた松尾スズキの小説(2005年刊行)を原作としたミュージカル。2026年1~2月に、東京・京都・岡山の3都市で公演された。

※2 松尾スズキ・リアルワークプロジェクト
2023年度から舞台芸術研究センター主催で実施しているプロジェクト。京都芸術大学の全学科の学生に対して募集・選抜を行い、作家・演出家・俳優・大人計画主宰・シアターコクーン芸術監督である松尾スズキ教授と共に舞台芸術作品を考察する。

※3 コクーン アクターズ スタジオ
松尾スズキ氏をはじめ、第一線で活躍する講師陣が指導を担当するアクターズスタジオ。約1年間のカリキュラムを通して、演技、歌やダンス、パントマイム、時代劇の所作など演劇で求められる様々なスキルを実践を交えて学ぶ。

 

撮影:面髙 真琴(ITP)