彩吹真央&京フィルレインボーコンサートin春秋座 彩吹真央×佐藤隆紀インタビュー【前編】
毎年、春秋座で恒例となった宝塚歌劇団OGと京都フィルハーモニー室内合奏団とのジョイントコンサート。今年は、宝塚退団後、女優として、歌手として大活躍されている彩吹真央さんが登場されます。ゲストにはミュージカル俳優として人気の佐藤隆紀(LE VELVETS)がご出演。どんなコンサートになるのか、お二人にお話しを伺いました。(インタビュー:2021年10月)
思い出のジュディ・ガーランド
― 彩吹さんが春秋座にいらっしゃるのは舞台 『アドルフに告ぐ』 (2015年)以来ですね。
彩吹 7年ぶりですね。私、東大阪市の出身ですし、宝塚には16年もいましたので、毎年秋になると必ず京都に遊びに行っていました。ですから『アドルフに告ぐ』に出演した時、京都に来ることができてとても嬉しかったですし、今回は京フィルさんとご一緒させていただけることになり、何て贅沢なのだろうと思っております。
― 2010年に宝塚を退団されてから本当に沢山の舞台に出演されていますが、『アドルフに告ぐ』と同年に上演した主演作『End of the RAINBOW』では再演もはたされていますね。
彩吹 私が演じたジュディ・ガーランド(1922-69)は実在する女優でありシンガーで、代表曲「Over the Rainbow(虹のかなたに)」は『オズの魔法使』の挿入歌としても有名です。
彼女はあの時代、ジェンダーレスの師としてあがめられていた部分もあり、ジェンダーレスの旗印であるレインボーカラーは、この曲から着想を得たとも言われています。そんな影響力がある方なのですが、彼女のことを調べるほど日本の方が思う彼女のイメージと欧米の方のジュディに対する思いの熱さに差があるなと感じたので、私がジュディを演じることで日本の方が彼女を好きになってくれたらいいなという思いで演じていました。
演出の上田一豪さんとも稽古の最終日かな、お客さんが私の演じるジュディを観て「47歳という若さで亡くなったジュディというエンターティナーを愛する気持ちになっていただけたらいいね」という話をしました。
― ジュディは壮絶な人生を送った方なんですよね。
彩吹 薬やお酒に走ったり、恋多き人生を送った方ですが、自分も舞台に立つ人間なので彼女の孤独や辛さ、喜びに対して共感する部分もあり、演じていて幸せだった部分と正直すごく辛い部分もありました。でも彼女から色々なものをもらえたし、感じさせてもらえたことで今があると思っているので、いまだにジュディのことを思い出しますね。いつかまた演じられる機会があったらいいなと思います。
そして私、以外と壮絶な人生を演じることが多いんですよ。例えばフリーダ・カーロという47歳で亡くなった画家の役もそうですし(『フリーダ・カーロ-折れた支柱-』2019)、今、お稽古している多重人格者の役もそう(『五番目のサリー』2021)。その度に私の中に無いものをイマジネーションで埋めていく作業をします。
でも、そういう役がめぐってくるというもある意味、運命なのかなとも思います。苦しむ役が多い一方で、明るい役が続いたり極端なんです(笑)。でもそれが役者としては楽しいですね。
― このコンサートシリーズでは毎回、出演者の方をイメージしたタイトルを付けているのですが、今回は彩吹さんが演じられたジュディをイメージし、「彩吹真央&京フィル レインボーコンサート」に決定いたしました!
彩吹 ありがとうございます!
― そしてゲストにLE VELVETSの佐藤隆紀さんをお迎えいたします。
お二人は何度か共演されているんですよね。
彩吹 シュガー(佐藤)と最初にご一緒したのは宝塚OGとLE VELVETSによるコンサート『The Sparkling Voice‐10人の貴公子たち‐』(2016年)かな?
佐藤 そうですよね。
彩吹 その後、ミュージカル『マリー・アントワネット』(2018)でシュガーが国王ルイ16世を、私は衣装係のローズ・ベルタン役を演じたのですが、いつも舞台袖でシュガーから出るマイナスイオンを浴びさせていただいていたんです。
佐藤 マイナスイオン?!
彩吹 声からマイナスイオンが出るので、それに癒されていました。
佐藤 いやいやいや(照)、でもローズ・ベルタンは本当に楽しいキャラクターでしたよね。
彩吹 そうですね。レオナール役の駒田一さんとコンビを組ませていただき、明るい場面担当でした。
佐藤 暗くなりがちなストーリーの中、お二人が作る楽しいシーンは救われるとろでしたよね。
『エリザベート』は宝塚人生のターニングポイントになる作品
― 彩吹さんは宝塚には16年いらしたので随分、沢山の作品にご出演されていますが、印象に残った作品というと何でしょう。
彩吹 沢山ありますね。でも『エリザベート』でしょうか。『エリザベート』の日本初演は宝塚で、しかも一路真輝さんの退団公演でした。当時、私は入団3年目で、東宝版でいうトートダンサー、宝塚版でいう黒天使の役で出させていただきました。次に春野寿美礼さんがトートをなさった時は入団9年目で皇太子ルドルフ役を、水夏希さんがトートをされた時は入団14年目で皇帝フランツをさせていただいたんです。
佐藤 へー、すごい!
彩吹 3回も出させていただいたというのは最多ではないかなと思っています。
その他にも新人公演(入団7年目までの若手が行う公演)で、宝塚と革命家のエルマーとシュテファンをやりましたし、他にも参列者や影コーラスもやったので『エリザベート』は体に染みついてる感じがします。
そうやって新人、中堅、上級生と異なる学年の時に出演させていただいた作品であり、また、バウホールやシアター・ドラマシティなど小劇場で主演をさせていただくタイミングトの時に『エリザベート』に出演しているので、私の中でターニングポイント的な作品として刻まれている気がします。ですから東宝版も観に行きますが、やはり自分がやった役はもちろんそれ以外の役にも感情移入してしまいますよね。
― 佐藤さんがご出演された東宝版の『エリザベート』はご覧になりましたか?
彩吹 もちろんです!
佐藤 恐らく僕が初めて『エリザベート』に出た時のものですよね。その時、僕はまだ舞台2作品目でだったので本当に何も分からないまま出ていたんですよ。本当にお恥ずかしい限りの状態で。
彩吹 フランツ役をされていたのですが、フランツは若い時から晩年までを演じるじゃないですか。1幕のフランツの初々しさがとても印象に残っていて。エリザベートに恋の告白をするシーンではシュガーがまだ舞台に対してドキドキしていている感じと、エリザベートにドキドキしている感じがとてもマッチしていたんですよね。
佐藤 素敵に表現していただいて本当にありがとうございます(照)。
彩吹 そこから段々と年を重ねていくのを上手く表現されていたなと思います。その頃からなんですけれど、容姿的にも安定感があるというのですか? すみませんっ(笑)
佐藤 いえいえ、本当に。演出の小池修一郎先生にも「君は晩年期の方が似合っているから、むしろ若い所をもっと若くしなさい」といわれていたぐらいで(笑)。
彩吹 あはは。
佐藤 ですから『The Sparkling Voice』コンサートでは一路真輝さんともご一緒したのですが、一路さんが「私、観に行ったのよ『エリザベート』。 LE VELVETSの中で出た人いるでしょ?」とおっしゃれれるので「僕、出ました!」と言ったら「あ、違う違う。あなた? あれ、あなた? あれ、あなた???」って他の3人に尋ねられまして、「僕がやりました」って言っても「いやいやいや、おじさんだったわよ」って(笑)。そのぐらい、すごく晩年がハマっていました。
彩吹 その時は何歳だったんすか?
佐藤 29歳ですかね。
彩吹 いやー、その年であの安定感ってなかなか出せないですよ。
佐藤 でも、先ほどルドルフ役をされたとおっしゃられましたけれど、僕も井上芳雄さんらのルドルフを観ているから、『エリザベート』のオーディションの話が来たと聞いた時、勝手に「ルドルフ役きた! よし、がんばらないと!」って思っていたら、「フランツです」って言われて(笑)。
彩吹 ルドルフやってみたかったですか?
佐藤 求められている求められていないは別としてやってはみたいですよね。
彩吹 そうですよねー、20代ですもんね。
佐藤 若手の登竜門みたいなものを飛び越してしまった気がして。やっぱり、やりたかったなというのはあります。
彩吹 あの時は田代万里生さんとダブルキャストでしたっけ。
佐藤 そうです。
彩吹 あの回は、キャストが今までやってこられた方とガラリと変わったので、ミュージカル界的にも私的にもやるなー!という時でしたし、新しいページを開いた回だったなと思います。
佐藤 ありがとうございます。
彩吹 あ、そうしたら2人でエリザベートとフランツのデュエット曲「夜のボート」ができるんじゃないですか。
佐藤 ぜひ!
彩吹 ほんと? 嬉しいです。じゃあ今回、「夜のボート」はぜひ歌いましょう!