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『舞台芸術』13号(2008年3月発行)特集:太田省吾の仕事—未来への応答 より 開幕を待つ 太田省吾

舞台芸術』13号(特集:太田省吾の仕事—未来への応答)に掲載された太田省吾氏のテキストを掲載いたします。
太田省吾(おおた・しょうご)劇作家・演出家

劇場に入り開幕を待つ。客電が落ち、闇がやってくる。この時間、劇的なるものの宝庫。これから展開される世界への期待、いや、それよりもっと広い、いわば開かれた闇、全能の闇。なにが現れてもOKの。

この数十秒の時間。やがて照明が入る。すると、そこにはなにかが現われる。限定された世界。

限定は、全能を殺すもの。しかし、よい舞台は限定に歓びを開く。〈今、ここ〉だけがもつことのできる歓心として。

あの数十秒。あれは、とすると死の、死を前にしての時間と通じていることになる。あの闇の中で、観客は死を前にした者になる。〈今、ここ〉を貴重なものと感じる者になるということだ。

舞台をつくる者は、あの闇を忘れないようにしなければ。
(2006年度 京都造形芸術大学 映像・舞台学科卒業制作公演へ向けてのメッセージ)

太田省吾(おおた・しょうご)
1939年、中国済南市に生まれる。1970年より1988年まで転形劇場を主宰。1978年『小町風伝』で岸田國士戯曲賞を受賞。1960年代という喧騒の時代に演劇活動を開始しながら、一切の台詞を排除した「沈黙劇」という独自のスタイルを確立する。代表作『水の駅』は沈黙劇三部作と称され、現在でも世界各地で作品が上演されている。また、『飛翔と懸垂』(1975年)、『裸形の劇場』(1980年)など、数々の演出論、エッセイを著している。転形劇場の解散後は、藤沢市湘南台文化センター市民シアター芸術監督、近畿大学文芸学部芸術学科教授を経て、2000年の京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)映像・舞台芸術学科開設や、続く2001年の同大学舞台芸術研究センターの開設に深く関わり、日本現代演劇の環境整備に力を注いだ。2007年逝去。