余白を楽しむ組踊
皆さま、こんにちは。30代一般女性、OLの土屋と申します。
私が今回このような機会をいただけたのは、玉城朝薫さんの創作した組踊五編、<朝薫五番>を春秋座で全て拝見させていただいたご褒美ではないかと思っております。そして、私は生まれの静岡から京都での大学生活を経て、長野、そして現在沖縄で暮らしております。暮らすキッカケには間違いなく、琉球芸能「組踊」があります。
そのようなご縁で、今回は「組踊」について私の好きなポイントをご紹介させていただきます。
初めて「組踊」を聴いたとき、ひとつひとつの言葉をとても大事に歌い上げるなあと感じました。歌声は伸びやかに、三線の音色は伴奏というより、その声に寄り添うように丁寧に音を紡いでいきます。演者は「静」中の「動」というように、ゆっくりとした動きの中に心は激しくある様子で私たちに迫ってきます。そして、私は長くも感じるその瞬間がとても好きです。響きの余韻や余白に色々な想像を巡らせて観ることができるからです。
組踊には、私たちが想像していいこの余白が、「時間」だけでなく、いろんなところに散りばめられているように思います。「物語」もとても単純ですが、でも300年たったからこそ生まれた「余白」があります。
春秋座で上演される「二童敵討」。その名の通り、二人の子ども(鶴松と亀千代)が父(護佐丸)の仇をとる。というように、組踊のタイトルは聞けば八割型その内容の想像がつき、難解ではありません。そこに私の想像力はガンガン働きます。あの見目麗しく、若い二人の仇討ちを応援したい気持ちのほかに、いや、冒頭から悪役さながらカッコ良くキメて登場する阿麻和利の勇ましさと陽気に酔って騙されてしまう様は、滑稽でもありますが本当はそこまで悪い奴じゃないのかも…とか。また、琉球史芸人・賀数仁然さん(1)によると、二人が母と対面しその複雑な思いを受け取る部分では、創作した玉城朝薫が母を幼い頃に亡くしたため(2)自分が触れられなかった母の愛を憧れのように作品の中に描いているそうで、そうか!背景など様々なことを知れば知るほど、余白がまた新たな想像のパーツで埋まり、面白いということを知りました。ということで!皆さんにもこの余白を楽しんでいただくための参考になればと思い、せっかく沖縄に住んでおりますから、阿麻和利さんの過ごした勝連城跡(3)を訪ねてみました。
建物はありませんが、模型での再現がこちら
勝連城は攻め入る敵軍を疲弊させるつくりをしています。
湾曲のラインに惚れ惚れしてしまいますが。
護佐丸の居城(中城城跡 4)があちらの方向に見えるようです。
訪れてみて、この勝連城は緊張感を覚えました。つまり戦いのための造りをしていて見渡しの良い景色は楽しむためではなく見張り合い戦いに備えた城だったのだなと感じました。 もしかしたら、ここでそんなナーバスな毎日を過ごしていた阿麻和利だから二人に心許した瞬間があったかもしれないなあ…さあ、皆さんはどうでしょう。 時を経て人からへ継がれて300年。いま、これらの「余白」に明確な一つの答えはきっと無く、観客が想像力でカラフルに埋めて良いと私は思っています。それが伝統芸能を現代人の私たちが楽しむ醍醐味です。さあ、自由な想像力で余白を巡る悠久の琉球の旅へ参りましょう!
※勝連城でこんな瞬間があったと想像するのも楽しいですね!
これを見てみると 組踊がもっと面白くなるかも!
1 賀数仁然さきがけ!歴男塾Youtubeチャンネル
2 文化デジタルライブラリー「組踊」朝薫の生い立ち
3 勝連城跡
4 中城城
文と写真 土屋わかこ(つちや・わかこ)
京都造形芸術大学 映像・舞台芸術学科舞台芸術コース卒業後、同期の演出家・杉原邦生のカンパニー「KUNIO 」に制作として参加する傍ら、舞台芸術研究センターでも制作助手を務める。その後、「こくみん共済(全労済)ホール/スペース・ゼロ」(東京都新宿区)、串田和美氏が芸術監督を務める「まつもと市民芸術館」(長野県松本市)を経て、沖縄県浦添市の公共ホール「アイム・ユニバース てだこホール」にて総務企画課に勤務。