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鼓童 中込健太さん&前田順康さん
インタビュー【後編】

今年で創立41年。幅広い年齢層で構成される鼓童。2007年よりメンバーとして活動し、パワフルな演奏スタイルと共に中堅としての役割を担う中込健太さん(写真右)と、2017年よりメンバーとして活動し若手として作曲や外部指導など活動の幅を広げる前田順康さん(写真左)。今年12月に春秋座で開催される『鼓童ワン・アース・ツアー2022〜ミチカケ』にも出演するお二人に、鼓童についてそして『ミチカケ』公演についてお話をうかがいました。

 

 

コロナ禍を経て気が付いたこと

― コロナ禍で公演ができない期間、鼓童のみなさんはラジオを始めたり、色々な試みや活動をされたりしていましたが、個人的にはどうやって過ごしておられたのですか?

中込 最初の方はどこにも行きたくないなと家に引きこもって家事をしていました。コロナが怖いから稽古場に行かなくて。でも時間があったので家でトマト缶に弦を張って弦楽器を作ったり、打楽器を作ったり、絵を描いたりというのを誰のためでもなく、自分のためだけにやりながら漠然とこれからどうなってくんだろうって思ってました。
実は最初の年は秋口ぐらいまで島外に出て演奏する仕事は断っていたんです。でも翌年3月ぐらいになって島外に出て演奏をした時、「やっぱり舞台が好きだ!」って改めて感じたんです。それまでは、このままフェイドアウトしていくんじゃないかとも思ったんですけれど、やっぱりやりたいなって思いました。

― 前田さんは、どうされていたんですか?

前田 ちょうどコロナ禍のタイミングで古い一軒家を借りて一人暮らしを始めたので、家、最高って思いながら過ごしてました。あとは絵を描いたり、散歩をしたり。
でも僕もコロナがめちゃくちゃ怖かったです。当時は隔離のレベルが今とは違ったじゃないですか。コロナになって死ぬかもしれないし、死ぬんだったら1人で死にたくないと思って。それに家族や友人がコロナに罹ったら一度も会えずに亡くなってしまう。そういう意味ですごく怖いと思って。だからアーティストとして活動ができないことのストレスよりも僕も罹りたくないし鼓童が活動することで佐渡の人にそういう思いさせちゃいけないと思って僕も積極的に引きこもっていました。
でもあの時は僕らの仕事がなくても社会は成立するというのを痛感しました。最初に芸術がカットされたじゃないですか。なのに補償もないわけで、アーティストは社会の中で立場が無いんだなと感じていました。それに落ち込みましたけれど、逆にそれで開き直れたというか。本当に自分たちのことを好きな人たちのために自分たちの好きなことを続ける。それでいいなと。
それまでは全人類に鼓童の音を届けよう、分かり合えない人のところにも出向いて客席を満員にして公演をしたいと思っていたのですが、それよりもこういう社会の中でも自分たちのことを好きで信じてくれてる人たちがいて、その方たちの前で公演ができることでまずは満足というか。それが長く続いていくことで全人類に鼓童の音が届くといいなぐらいな気持ちになりました。以前はこの5年以内にみんなに鼓童のことを知ってほしいという気持ちやっていたのですが、コロナ禍を経てゆっくりな思考になれたのでよかったですね。


様々なアーティストからの刺激

― 鼓童は世界的ギタリストMIYAVIさんや初音ミクとの共演、残念ながらコロナ禍の影響で中止となってしまいましたが演出家 ベール・ルパージュによる「鼓童×ロベール・ルパージュ〈NOVA〉」など、様々な方とコラボをされていますね。
最近では豊田利晃(監督)×鼓童×日野浩志郎(現代音楽家)による震撼音楽映画『戦慄せしめよ』の撮影・公開が話題を呼びました。今回の『ミチカケ』公演では日野さんから提供された楽曲も演奏されるそうですが、鼓童として、また個人としてどんな影響をうけましたか。

中込 日野君と僕は同じ歳なので存在は前から知ってはいたのですが、鼓童の住𠮷佑太が日野君と仲良くなったことから『戦慄せしめよ』の撮影に繋がったんです。製作期間は日野君も佐渡に滞在して集中して作りました。 同世代の人が鼓童に入ってきて一緒に作品を作ったことは、稽古場にすごくいい影響をもたらしてくれましたね。

 

 

前田 僕は日野さんへの愛を話すと一晩かかりますよ。日野さんに限らずコラボや外の人が鼓童をディレクションするのはすごくいいと思っていて。僕らが知らない鼓童の魅力や太鼓の魅力に気付けるし、他の人から見た鼓童の良さってこういうとこだよねというのを抽出して作るじゃないですか。それが僕らにとって新しい発見になるんですよね。特に決めつけているつもりがなくても鼓童の太鼓とはこういうもの、というのが固定してしまいがちです。
例えば鼓童の衣裳のひとつに半纏(はんてん)がありますが、やはり中から舞台で半纏を着るのをやめますということにならなかったんですね。それを坂東玉三郎さんが半纏をやめようといって『伝説』という舞台を作ったり、そのおかげで今回の『ミチカケ』も半纏じゃない衣裳にしたり。
音楽的にも鼓童は結成当初から割と自由ですれども、それでも凝り固まっていくところを日野浩志郎さんが入ることで「太鼓の響きをこういう風にアプローチしたら面白いんじゃない? 」と提案してくださったり、僕らがアンサンブルの時にあまり入れない種類の太鼓を入れるとすごく面白くなったり。また、ルパージュさんだったら視覚的なアプローチですね。(鼓童の舞台では)大太鼓背中を見せて打つことが多い、くらいの表現がよいかなと思います。けれど横から見たらこういう美しさがあるとか。他者の目を通して僕らが気づけないことが再発見できることがいいですよね。


『ミチカケ』は、それぞれがお題をうけて作曲

― それでは今回の公演『ミチカケ』のお話を伺いたいと思います。

『ミチカケ』は夜明けから深夜まで変わり続ける自然のリズムをテーマに、長い周期感や「数」に秘められた律動を太鼓音楽で探求するという新作ですが、今までの舞台とはガラッと印象が変わりそうですね。

前田 ここ数年、ルパージュさんや日野さん、様々なダンサーとのコラボで自分たちが新たに気づいた太鼓の魅力。こんな音もあるんだとか、こんなことができるんだというの鼓童の最前線、自分たちが今、一番面白いと思ってる太鼓の音が全部詰まってるのが今回の『ミチカケ』だと思います。
今回、音楽監督は住𠮷ですが作曲するのは住𠮷だけじゃなく健太さんや僕を含め、色々な人が住吉からお題を受けて作曲しています。だから音楽の偏りがなく、良い意味で公演の中での統一はできてると思うんですけれど。

― 今言える段階で、お2人が作曲した曲についてお話していただけますか。

中込 住𠮷から僕へのお題は「満ち欠け」だったのですが、自分が「満ち欠け」や「潮の満ち引き」を感じる時ってどんな時だろうと考えてみたんです。僕は釣りが好きなんですが夕方、急に魚がエサを追い始める時間があるんですね。その時間がすごく不思議だなと思っていたので魚影をテーマにしました。仮タイトルに「魚影」とつけています(笑)。

― それは自然が豊かで海に囲まれた佐渡ならではですね。

中込 そうですよね。魚影を見ると「わ、魚の群れが来た!」とゾクゾクするんですよ。
そして公演のラストで演奏する大太鼓などを使った、とにかくキツイやつを作ってくださいと言われたので、「キツイ」もテーマにしています。今回、全体的に響きを楽しむ曲が多かったので、僕のところは肉体が見えてくるようなアプローチにしようと思って。今まで「叩く」ことを頑張ってきたのですが、今回は「作る」を頑張ろうかなと思っています。

前田 実は最初、健太さんが作られた曲を見た時「すげえ音量だな」ぐらいにしか思っていなかったんです。けれど「体から音が見えてくる」がテーマだと聞いて、なるほどって思ったんです。大きい太鼓を大きいバチで打つのにリズムが非常に難しくて、こう打たないとできないという風になっている。それで、その通りに打つと自然とストロークが導かれるんですね。それを奏者たちがギリギリの状態でやっていて、しかもいろんな角度から打っている人がいる。その体がめちゃくちゃ美しいなと。

中込 僕はバチの軌道がすごく好きなので、それを綺麗に見せたくて。例えば同じフレーズでも半拍ずつ遅らせて打つと軌道が波のように見えるんです。そういう仕掛けを面白く作りたいなと思っています。

― 前田さんはいかがですか?

前田 僕は「数」をテーマにしてほしいと言われました。数学におけるユークリッドの互除法を音楽に応用したユークリッド・リズム(メロディの開始点がどこかよく分からない複雑性のあるリズム。浮遊感や異世界感、独特な魅力を作り出す)というのがあるんです。そういう数から導かれるものをテーマにリズムをアプローチしてほしいと言われて。
最終的にこういう曲にしたいと思ったのは、先ほどの研修所の話と同じなのですが、この世には僕らが太鼓を叩かなくてもリズムはあるんですよね。そういう鳥の声、虫の音、木が揺れる音など現象のようなものを(リズムから)感じさせたいと思って。街にいると意識しにくいですが、やはり街にも僕らがいう音楽とは違う音楽が成立しているという音楽哲学が自分の中にあるので、そういう雰囲気や時間を感じてほしいなと思ったんです。だから僕らが太鼓を支配するのではなく、無理のないリズムで山の中に入ってるような気持ちになってもらえる曲が作れたらなと思っています。

 

 

― 中込さんも前田さんも佐渡の暮らしの中から様々なインスピレーション受けて作曲しているわけですよね。そうすると住んでる場所によって作り出す音楽が変わりそうですね。

前田 それでいいなって思って。東京に住んでいる人は東京の音楽をしたらいいと思います。それも素敵ですし、僕らは佐渡にいるから佐渡の音楽を作る。逆に僕らが佐渡にいながら都会の音楽をやっても面白くないですしね。自分に無理のないものをやってた方がいいんじゃないかなと思います。

― 毎日、見ている景色が違いますからね。

前田 そうですね。東京の人が「満ち欠け」をテーマに作るのと佐渡に住む僕らが作るものは全く違うものになると思うので、そういう意味で、確かに僕らがやるのにマッチしたテーマなのかもしれないですね。

太鼓の響きが印象に残る公演

― 面白そうですね。今のところどんな舞台になりそうですか?

前田 僕は太鼓の響きがすごく印象に残る公演になるんじゃないかなと思っています。今までの鼓童はリズムが印象に残る公演をやってきたじゃないですか。公演の帰り道、今聴いた太鼓のリズムを「ドコドン、ドンドコ」と歌えちゃうみたいな。でも今回は太鼓の一打、一音が消える瞬間まで聴いてもらいたいなと思って。太鼓の音が重なった時の気持ち良さとか、健太さんの曲だと体やバチの軌道の美しさとかの方が印象に残るんじゃないかなって思ってます。今までとはもうちょっと違う。見終わった後に太鼓の新しい要素が印象に残るんじゃないかなって。一番、言いたいのは「太鼓の音の響きが消えてなくなる瞬間を今まで聴いたことがありますか」ということですね。

 

 

僕はそれを春秋座でやるのはすごいいいことだと思っているんです。場が持っている空気やエネルギーが前向きなのが気に入っているんです。それに他の劇場と違って、大学内にあるので常に何かを作っている人たちが集まっている場でもあり、それが僕らにも影響するんだなって思います。だから決めつけがない舞台を楽しんでもらえたらなと。

― 今回、それを体感してしまったら、次からの鼓童の公演では、今までとは違った見方、聴き方になりそうですね。

前田 そうなるといいですよね。鼓童はまだ40周年なので太鼓ってこういうものだと価値を決めつけるにはまだ早く、あまり体系づけない方がいいなと思ってます。鼓童がそれをやってしまうと多分、太鼓は本当に面白くなくなっちゃうので。

― 鼓童はクラシックな演奏もできるし今年みたいな前衛的な演奏もできるよという感じですね。

前田 そうそう。鼓童のコンサートに行けば大太鼓や屋台囃子が観られるというのも一つですが、今回はあえて、それをやらない。それで僕たちとお客さんお互いが楽しめたらいいよねと思っています。

「行ってみないと分からない」楽しさ

― この『ミチカケ』という公演は実のところまだまだ僕たちも未知ですし、 来てくださる方はもっと未知だと思うのですが、だからこそ想像力を働かせる余地がたくさんあると思っています。そこでみんなが楽しんでもらえるといいなと。今は何でもカテゴリーにはめたくなりますが、「行ってみないと分からない」ということが楽しめたらいいなと思っています。ですので、ぜひみなさん音の響きや律動を体感しに来てほしいなと思います。

前田 僕らはエンタメという感じでやっていないので結果を決めつけるのはなんか違うというか。これは鼓童の意見ではなくて僕個人の意見ですけれど。これを見ればこれを感じられるというのは、もういいかなと思って。僕からしたら、だったらYouTubeでも見ればいいじゃんって感じです。
今、健太さん言ったように結果が分かってるもの、これをすればこうなるってものが世の中に溢れてるじゃないですか。そういう社会の中で僕らは、何が起きるか分からない、こういうこともあるというのを感じてもらえる舞台にしたいなと思っています。

 

前編はこちら➡

鼓童ワン・アース・ツアー2022~ミチカケ
2022年12月3日(土)、4日(日)13:00 開催!