大学開学30周年記念・劇場20周年記念公演 田村友一郎『テイストレス』
現代アーティスト・田村友一郎は従来の美術の領域にとらわれない独自の省察の形式を用いて、現実と虚構を交差させつつ多層的な物語を構築するインスタレーションやパフォーマンスを手掛けてきました。
今回作品を発表する京都芸術劇場 春秋座は本格的な歌舞伎スタイルを基本としながら、現代劇の上演にも対応できるよう設計された客席数800席ほどの劇場です。田村が劇場で作品を発表するのは初の機会となりますが、舞台芸術のために設えられた劇場という環境をどのように眺めるのでしょうか。
劇場作品『テイストレス』映像(全編)
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構成:田村友一郎
出演:山崎皓司、荒木悠
ドラマトゥルク:前原拓也
照明:高原文江
照明オペレーター:海老澤美幸 [Licka]
サウンドデザイン:荒木優光
音響:甲田徹
映像:松見拓也
映像アシスタント:福岡想
衣装スタイリング:小山田孝司
印刷物デザイン:尾中俊介 [Calamari Inc.]
記録映像:西野正将
翻訳:荒木悠(シーン2)、奥村雄樹(シーン1、3–5、7、9)
英訳校正:グレッグ・ウィルコックス
企画・制作:中山佐代
協力:ユカ・ツルノ・ギャラリー
[舞台芸術研究センター]
舞台監督:大田和司
制作:竹宮華美、後藤孝典、河本彩
[ピーエーシーウエスト]
劇場技術担当:山中仁(舞台)、小山陽美(照明)、才木美里(音響)
舞台裏管理:結城敏恵
主催:学校法人瓜生山学園 京都芸術大学 舞台芸術研究センター
共催:独立行政法人 国際交流基金京都支部(映像公開事業に対して)
※本公演は、本学、共同利用・共同研究拠点事業〈舞台芸術作品の創造・受容のための領域横断的・実践的研究拠点〉2019年度劇場実験型公募研究プロジェクトⅡ「The Waiting Grounds―舞台芸術と劇場の現在を巡る領域横断的試み」における研究成果に基づいています。
チューインガムのドラマトゥルギー
『テイストレス』を支えるのは、チューインガムのドラマトゥルギーである。ドラマトゥルギーという概念は、演劇の作劇術を表すことから始まり、演劇以外にも様々な物事の分析手法として援用されてきた。チューインガムは、その名が示す通り、人が「咀嚼(チューイン)」することにより存在すると言えるだろう。噛まれ始めると、唾液と混ざり合い、味が充満している状態から、味が無い状態へと単線的に進行していく。ある充実から、ある空虚へ進行していくドラマトゥルギーが、第一にチューインガムを特徴づける。本作の組み立ては、そんなチューインガムの特徴をベースに構成している。
チューインガム自体の特徴から離れて、人間に目を向けてみよう。人々が、味が無くなってもなぜだか同じガムを咀嚼し続けてしまうという習慣も、チューインガムのドラマトゥルギーにおいて重要な意味を持つ。一般に人間が口にする物は、味と共に胃へと消化されていく。一方で、チューインガムは味が無くなっても口に残り、だらだらと咀嚼され続ける。味が無くなっても噛み続けるという状態は、現代社会を取り巻く状況と相似形を示すだろう。我々は、形骸化した悪習を「口さみしく」噛み続けてしまう。
そんな「口さみしさ」として、チューインガム開発の先駆けである国アメリカの見果てぬ夢、「アメリカンドリーム」を参照した。実力だけでのし上がれる自由の国アメリカ。強国の「自由」が揺らいで久しいが、皆アメリカという幻影への挑戦を続ける。そしてアメリカ自身も、何度も失敗を繰り返しながら、自国の誇りである夢の宇宙開発を続ける。まるで味の無くなったチューインガムを噛み続けるように。
最後に、日本という国におけるチューインガムの役割も、そのドラマトゥルギーに影響を与える。チューインガムを噛むという習慣は、戦後になってから日本でポピュラーになった。戦後のアメリカ文化への憧れと並行して、この習慣も共に輸入されたのである。メジャーリーガーやハリウッド俳優が咀嚼するガムは、メディアを通じてグローバルに強者のイメージを流布した。チューインガムを噛むことは、強者たちを模倣することなのかもしれない。
以上のような様々な文脈が交錯するチューインガムを、我々は自らの意志で口に入れる。しかし、味が無くなっていくことに気付くと、こう問いかけることもあるだろう。我々はガムを噛んでいるのだろうか。それともガムに噛まされているのだろうか。
田村友一郎 Yuichiro Tamura
1977年富山県生まれ、京都府在住。既存のイメージやオブジェクトを起点にした作品を手掛ける。土地固有の歴史的主題から身近な大衆的主題まで対象は幅広く、現実と虚構を交差させつつ多層的な物語を構築する。近年の展覧会に、個展「Milky Mountain/裏返りの山」(Govett-Brewster Art Gallery、ニュージーランド、2019)、「叫び声/Hell Scream」(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA、京都、2018)、グループ展「ヨコハマトリエンナーレ2020」(横浜美術館、横浜、2020)、「Readings From Below」(Times Art Center Berlin、ベルリン、2020)、「磯人麗水|ISDRSI」(豊岡市立美術館ほか、兵庫、2020)「アジア・アート・ビエンナーレ」(国立台湾美術館、台中、2019)、「話しているのは誰?現代美術に潜む文学」(国立新美術館、東京、2019)、「美術館の七燈」(広島市現代美術館、広島、2019)、「六本木クロッシング2019」(森美術館、東京、2019)、釜山ビエンナーレ(釜山現代美術館、韓国、2018)、日産アートアワード2017(BankART Studio NYK、横浜、2017)、「2 or 3 Tigers」(世界文化の家、ベルリン、2017)、「BODY/PLAY/POLITICS」(横浜美術館、横浜、2016)など。
http://damianoyurkiewich.com/
山崎皓司 Koji Yamazaki
1982年静岡県掛川市生まれ。
劇団「快快(FAIFAI)」パフォーマー。
2019年から活動拠点を東京から静岡県掛川市に移し、現在は百姓を志し、俳優、狩猟、農業、養蜂等をしながら、世界平和への道を模索している。百姓生活を記録したドキュメンタリー作品「Koji Return」をYouTubeで公開中。
https://www.faifai.tv
荒木悠 Yu Araki
1985年山形県生まれ。東京都在住。文化の伝播や異文化同士の出会い、その過程で生じる誤解や誤訳の可能性に着目し、歴史上の出来事と空想との狭間にある物語を再現・再演といった手法で編み出す映像インスタレーションを展開している。近年の主な展覧会に、個展「RUSH HOUR」(CAI02、札幌、2019)、「ニッポンノミヤゲ LE SOUVENIR DU JAPON」(資生堂ギャラリー、東京、2019)、「New Apéritif」(スプリングバレーブルワリー、京都、2019) など。グループ展に「11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan」(国際交流基金、オンライン、2021)、「Connections – 海を越える憧れ、日本とフランスの150年」(ポーラ美術館、箱根、2020)、「CONTACT:つなぐ・むすぶ 日本と世界のアート展」(清水寺成就院、京都、2019)、「The Island of the Colorblind」(アートソンジェ・センター、ソウル、2019)、「Future Generation Art Prize」(ピンチューク・アートセンター、キエフ/Palazzo Ca ‘Tron、ヴェネツィア、2019)、「The Way Things Do」(ジョアン・ミロ財団現代美術研究センター、バルセロナ、2017)、「岡山芸術交流」(岡山、2016)など。田村友一郎作品は、2016年の『裏切りの海 / Milky Bay』以来二度目の出演となる。
http://www.yuaraki.com/
公演アーカイブ
■掲載情報
ウェブマガジン AMeeT(アミート)
村川拓也(演出家・映像作家) × 田村友一郎(現代アーティスト) 対談
舞台上の「人」と相対する
前半 https://www.ameet.jp/feature/3494/
後半 https://www.ameet.jp/feature/3527/
国際交流基金 アーティストインタビュー
起点から飛躍する田村友一郎のアプローチ
聞き手:中山佐代[《テイストレス》企画者]、坪池栄子
〔日本語版〕
https://performingarts.jpf.go.jp/J/art_interview/2111/1.html
〔英語版〕
https://performingarts.jpf.go.jp/E/art_interview/2111/1.html
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