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劇場20周年記念プレ公演 春秋座ー能と狂言

歌舞伎劇場の空間で、花道を橋掛かりにみたて、伝統的な能・狂言をお楽しみいただく春秋座恒例企画です。12回目となる今回は、能『砧(きぬた)』、狂言『舟渡聟(ふなわたしむこ)』をお届けします。

出演:観世銕之丞、野村万作 他
企画・監修:渡邊守章(演出家)
照明デザイン:服部基
舞台監督:小坂部恵次

協力:銕仙会、万作の会、空中庭園 助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)独立行政法人日本芸術文化振興会

「和楽」と「無上無味」-『舟渡聟』と『砧』

第十二回の【春秋座 能と狂言】は、能は『砧』、狂言は『舟渡聟』をご覧いただきます。

『舟渡聟』の舞台は琵琶湖畔の矢橋(やばせ)。聟入りのため、聟が舅の家に向かう舟中で、大髭をたくわえた酒好きの船頭に祝儀の酒を飲まれてしまいますが、その船頭はなんと矢橋の舅でした。舅は大髭を剃り、袖で顔を隠して聟と盃を交わしますが、やがて最前の船頭であることが露顕し……。「万作・狂言十八選」のうち。狂言の神髄を、「和楽(わらく)(対立ではなく許し合い)」とみる万作氏の世界。お孫さんの裕基君の聟も見ものです。

『砧』は世阿弥が「かやうの能の味はひは、末の世に知る人あるまじ」と述懐した、彼の自信作です。この「味はひ」は「無上無味(むじょうむみ = 味わいを超越した味わい)」だとも世阿弥は言っています。舞台は九州の芦屋(福岡県遠賀郡芦屋町)、季節は晩秋。三年前、訴訟で上洛した夫(芦屋殿)の帰国を待つ妻がこの能の主人公です。そこに都から芦屋殿の侍女夕霧が「年の暮れには帰る」という伝言を託されて下ってきます。この能には何度も「三年」が出てきますが、それは出奔した夫から三年音信がなければ「改嫁(再婚)」できるという律令時代の『戸令(こりょう=戸籍法)』が当時も慣習として残っていたことを背景としているようです。「改稼」は夫の心変わりを意味しており、妻はその「三年目の秋」の夫の帰国を祈るように待っていたのです。しかし、夕霧は一人で帰国、妻はせめてもの慰めにと砧を擣(う)つことになります。砧は艶出しのために衣を擣つ木製の道具です。ここが妻の複雑きわまりない心情を描いた「砧の段」です。しかし、都からの使いが、「殿はこの暮れにも帰らない」と言ってきたので(使いは実際には登場しません)、妻は絶望のあまり空しくなってしまいます。その後、帰国した芦屋殿の前に亡き妻の亡霊が現われ、夫の違約を激しく責めますが、芦屋殿の弔いと、生前に擣った砧の音に得脱の因があったとして、妻は成仏を遂げます。さて、この能のどこが「無上無味」なのか、ご覧になったみなさんは、どうお考えになるでしょうか。

(天野 文雄/舞台芸術研究センター所長)

 

狂言『舟渡聟』(ふなわたしむこ)出演 野村万作インタビュー

 

『砧』出演 観世銕之丞インタビュー

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『砧』 詞章・現代語訳