京舞と狂言 vol.3
~井上安寿子 vs. 茂山忠三郎~
京都の地で伝承され、独自の文化を育んでいる「狂言」と「京舞」。異種芸能でありながら両者が共通に持っているテーマを取り上げ、比較上演する三年連続企画の最終回。今回は「平家物語」の世界を描いた演目対決など、豪華組み合わせでお届けします。
【京舞】 上方唄「文月」(ふみづき)
文月(旧暦七月)の七夕の夜に年に一度逢うであろう織姫と彦星をうらやましく思う傾城の心情から始まり、夕暮れ時に恋しい人を待つ思慕の心、逢えたならば胸の思いを打ち明けたい願いを、江戸吉原の地名、風物を織り交ぜながら表現します。井上流では今回が初披露になります。
立方 : 井上安寿子
地方 : 菊原智子、菊萠文子
【狂言】「禰宜山伏」(ねぎやまぶし)
伊勢の禰宜が街道の茶屋で休息しているところに、山伏が入ってきて難癖をつけ、挙げ句の果てに禰宜に自分の肩箱を持って供をしろと言い出します。仲裁に入った茶屋が大黒天を持ち出し、影向あった方の言うことを聞くことにしようと提案し、2人が祈ると、大黒天は素直な禰宜のほうへ傾くが、横柄な山伏が無理矢理自分のほうに向かせようとし・・・
出演 : 茂山忠三郎、茂山良倫、他
【京舞】 義太夫「弓流し物語」(ゆみながしものがたり)
詞章によると佐藤忠信の妹・玉里(たまざと)が源頼朝に呼び出され、八島の源平合戦の有り様を物語るとなっていますが、舞は終始、男舞として振付られています。義経が波間に落とした弓を敵に奪われまいと活躍した「弓流し」に始まり、悪七兵衛景清(あくしちびょうえかげきよ)と三保谷(みおのや)四郎国俊の「錣引(しころびき)」など合戦の名場面を描いています。
立 方 : 井上安寿子
浄瑠璃 : 竹本駒之助(人間国宝)、竹本京之助
三味線 : 鶴澤津賀寿
【狂言】 「那須語」(なすのかたり)
平家物語、屋島の戦いでの一幕です。海上へ逃げ延びた平家一行の船から『この扇の的を射抜いてみよ』と挑発された源義経軍。家来の後藤兵衛実基は、小兵ながらも弓の腕前に長けていた那須与一を推します。与一は外せば自害もやむなしの緊張のなか、見事に射貫きます。扇子一つで緊迫した情景を、義経・実基・与一・語り手の四役で演じ分けます。
出演 : 茂山忠三郎
囃子 : 望月晴美、藤舎朱音、望月美沙輔
【トーク】
茂山忠三郎、井上安寿子/ 聞き手: 山本太郎(ニッポン画家)
Profile
井上安寿子(いのうえ・やすこ)
京舞井上流五世家元井上八千代の長女として京都に生まれる。平成3年、四世及び五世井上八千代に師事。平成4年「四世井上八千代米寿の会」にて初舞台(上方唄「七福神」)。平成18年井上流名取となる。平成23年京都造形芸術大学(現 京都芸術大学)卒業。平成25年井上安寿子主催の京舞公演 〈葉々(ようよう)〉の会を発足。平成30年文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞、他受賞歴多数。
茂山忠三郎(しげやま・ちゅうざぶろう)
昭和57年京都に生まれる。能楽師大蔵流狂言方。茂山忠三郎家、四世忠三郎の長男。父に師事。四歳にて「伊呂波」のシテで初舞台。平成17年京都造形芸術大学(現 京都芸術大学)卒業。《忠三郎狂言会》代表、猿楽曾主宰。平成29年、五世茂山忠三郎襲名。平成25年文化庁芸術祭賞新人賞受賞、他受賞歴多数。
企画:田口章子(京都芸術大学教授、歌舞伎研究)
公演アーカイブ
舞台写真 撮影:桂秀也
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