1. HOME
  2. 読みもの
  3. 琉球芸能 春秋座特別公演 記者懇親会レポート

祝 国立劇場おきなわ開場20周年 琉球芸能 春秋座特別公演
記者懇親会レポート

2024年6月1日(土)京都芸術劇場 春秋座にて開催の「琉球芸能 春秋座特別公演」に先立ち、記者懇親会を開催。本公演に出演する国立劇場おきなわの金城真次芸術監督、当日開催した琉球芸能ワークショップ講師の棚原健太氏、髙井賢太郎氏をお迎えし、2012年より続く本公演の企画を務める田口章子本学教授が登壇しました。
琉球芸能の魅力や担い手としての熱い抱負を伺うと共に、琉球舞踊、組踊、沖縄芝居を一度に堪能できる贅沢なプログラム内容、人間国宝を交えた豪華出演陣等、公演のみどころをお話しいただきました。その様子を、劇場スタッフがレポートいたします。

写真:左から金城真次さん、棚原健太さん、髙井賢太郎さん

 

— まずは一言ずつご挨拶を頂戴できますでしょうか。

田口 この公演の企画をしております田口章子と申します。よろしくお願いします。この公演を 誰よりも楽しみにしている1人でございます。

金城 国立劇場おきなわ芸術監督の金城真次 (きんじょうしんじ) と申します。
6月1日の公演を田口先生以上に楽しみにしている1人でございます(笑)。京都に来ると実家に帰ってきたような、そんな気持ちになるようになりました。春秋座での公演も回を重ねるごとに熱気が増しているように感じておりますので、今回も楽しみです。どうぞよろしくお願いいたします。

棚原 歌・三線 (さんしん) の棚原健太 (たなはらけんた) と申します。
国立劇場おきなわの組踊研修を卒業した身としても、国立劇場おきなわ開場20周年記念公演が京都で開催できることを大変、嬉しく思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

高井 立方の髙井賢太郎 (たかいけんたろう) と申します。 芸術の盛んな京都で沖縄の伝統芸能を皆さんと共有できることを楽しみにしています。 よろしくお願いいたします。

 

春秋座でしか観られない贅沢な舞台

— 「琉球芸能 春秋座特別公演」について、企画者である田口章子先生より紹介をお願いします。

田口 この公演は今年で7回目になるのですが、演目だけでなく出演者においても「春秋座でしか観られない舞台」をテーマに企画しています。
公演を始めるきっかけとなったのが、私が企画しております公開講座「日本芸能史」で琉球芸能の立方・宮城能鳳 (みやぎのうほう) 先生と地謡・西江喜春 (にしえきしゅん) 先生という両人間国宝を講師にお迎えし、琉球芸能の素晴らしさを改めて教えていただきました。その時に大変、感激いたしまして、翌年の2012年から隔年で公演を開催するようになりました。
公演を始めた頃は主に古典作品を上演していましたが、5回目からは沖縄芝居という明治以降にできた新しい芝居と組踊など古典をカップリングして上演しています。
春秋座は大学の中にある劇場ですので、こういった本土で観る機会が少ない公演を上演することが、劇場を持つ大学の使命であると考えて続けております。今後もできる限り続けていきたいという考えでいます。どうぞよろしくお願いいたします。
また今回は、私たちも国立劇場おきなわ開場20周年をお祝いしたいという気持ちを込めて、冠に「祝 国立劇場おきなわ開場20周年公演」と付けさせていただきました。

※沖縄芝居=沖縄芝居明治中期以降に誕生した、沖縄口(ウチナーグチ)による演劇。せりふ劇と歌劇がある。

— 田口先生の中での今回の公演の一番の見どころはいかがしょうか。

田口 今回、沖縄芝居は『想(うむ)い』という喜歌劇を上演いたします。『想い』は、私が大好きな伊良波尹吉(いらはいんきち)という方が書いた沖縄芝居です。本土にいると沖縄芝居に触れる機会は少ないのではないかなと思うのですが、私は一度観て、すぐにハマってしまいました。これは皆さんにぜひ観てほしい! と強く思っている作品です。
ご期待ください!!

 

歌劇なのに歌がない!?

— それでは今回のプログラムの説明をお願いします。

金城 第1部では沖縄芝居の喜歌劇と舞踊を上演いたします。
前回 (2022年) の公演では明治時代の終わり頃にできた喜歌劇『夜半参 (やはんめー) 』という沖縄芝居を上演いたしました。今回はそれとは少し違った部類の歌劇をお届けしようと、もう少し後の時代に伊良波尹吉が作った『想い』という歌劇を上演いたします。
歌劇と言いますと役者が三線に合わせて歌いながら演技をするものですが、『想い』は歌劇でありながら歌っている時間が少ないんです。それなのになぜ歌劇なのか。歌劇では「つらね 」も唱えるのですが、『想い』は、このつらねの応酬で芝居が進行していくのです。つらねは歌に分類されているので、この作品は歌劇とされています。こういう作品はなかなか無く、非常に貴重なので私は残しておくべき大切な作品だと考えております。

※つらね=八、八、八、六音の独特のメロディとリズムにのせて発する沖縄芝居ならではのセリフの言いまわし

内容としては家の門前、通りで演じられる一幕ものです。そこでいきなり踊りが始まったりするんですね。通常だと道で踊ってるそんな馬鹿な人はいませんよね(笑)。だけど沖縄芝居の場合はそれが、なんて言うんでしょう、変に思えないです。変であることを忘れさせるようなおかしさや面白さがあるので、そこも見どころじゃないかなと思います。
やはり、沖縄芝居の魅力は、やはり古い沖縄の言葉を使っているところですね。そして古い沖縄の人がやっていたような動作、仕草がリアルに演じられるところもいいなと思います。そのようなところもぜひ、お楽しみください。

田口 客席から観た沖縄芝居の魅力という点で言いますと、物語が複雑ではないんです。この言葉が合ってるかどうかわかりませんけれど、簡単に言ってしまえば単純です。その中で、いわゆる今の日本人が忘れてしまったような、人のありようというものを思い出させてくれる。そこに魅力があります。ストーリーは簡単なのに、本当に不思議なくらいに人の心を掴むんです。
それには、やはり役者の力が大きいんですね。金城監督は沖縄芸能のスターでして、もう1人のスターは今まで春秋座でもお世話になってきました前芸術監督の嘉数道彦さん。この2人がタッグを組むとすごい舞台になるのですが、今回はこの2人が演じるので大変、楽しみにしています。そういう役者が見せる面白さというものが簡単なストーリーの中だからこそ発揮されるわけです。

金城 これは6月1日が怖いですね(笑)。
それから舞踊は、これまでの公演では群舞があったり、二人舞があったりと華やかなものをお届けしましたが、今回はあえて一人舞だけを 4題並べてみました。京都の皆さんにこういう踊りもあるんだよと知っていただけたらと思い、あまり見られないような作品を交えております。

 

沖縄でもめったにない、人間国宝らによる舞台

金城 第2部では久々に組踊の創始者・玉城朝薫 (たまぐすくちょうくん) 作の『女物狂 (おんなものぐるい) 』を上演いたします。『女物狂』を含め玉城朝薫が作った5作品は「朝薫の五番」と言われています。「朝薫の五番」は演じる私たちにとっても基礎となる大切な作品です。『女物狂』は「朝薫の五番」の中でも上演時間も短くて観やすい作品ですし、ストーリーもかなり分かりやすいですね。また可愛い子役も登場しますので、そちらも見所のひとつです。
今回は立方の指導を人間国宝の宮城能鳳先生にお願いしております。そして三味線と歌を西江喜春先生太鼓を比嘉聰先生という両人間国宝の先生方にお願いしておりまして、沖縄の方々からも非常に羨ましがられています。お二方は1部の踊りの地謡も務められるのですが、こういうことも沖縄ではないことです。
ですから先ほど田口先生がおっしゃっていましたけれど、実に春秋座らしい公演だと私は思っております。もう一言で必見です!

田口 琉球芸能の魅力は言葉をとても大事にしていることですね。組踊は琉球王朝時代の言葉をそのまま使っていますし、沖縄芝居も古い沖縄の方言を使っています。
私は文化で1番大事なのは「言葉」だと思っているんですね。琉球芸能は、それをとても大事にしているところも大きな魅力です。この公演を観ることで、文化を通して琉球や沖縄を知るということの意味も見えてくるのではないかなと思っております。
ちなみに当日は字幕がでるので大丈夫ですよ。

 

沖縄の人々にとっての芸能とは

― 当日、ホワイエでは琉球芸能にまつわる衣装の展示なども計画しておりますので、ぜひお楽しみに。
ところで長い琉球の歴史の中で培われてきた琉球芸能ですが、沖縄の方々にとって琉球の芸能というのはどういった存在なのでしょうか。また、その芸能を京都でやることの意義をどのようにお考えになっていらっしゃいますか。

金城 おそらく3人で答えが違うと思うんですけど、私の考える沖縄の芸能というのは答えが1つじゃないんですね。沖縄の芸能というのはとてもバラエティに富んでいて、日常に溢れています。溢れているというより紛れているんですね。生活にも繋がっているので、 芸能がそこに紛れていることに気づかない人もたくさんいます。
例えば家に三線があるのが当たり前だとか、女性の方だったら踊りの小道具や衣裳が引き出しの中に入っているとか。なぜ入っているのかというと婦人会のサークルで踊った時のものだったりするわけです。これら全部をひっくるめて沖縄芸能だと思っています。
私は今、国立劇場おきなわに勤めておりますけれども、何も国立劇場おきなわがやってるものだけが沖縄の芸能とはこれっぽっちも思っていないんです。そのように生活の中に芸能が紛れている中で、国立劇場おきなわとの役目は各ジャンルのバラエティに富んだ公演をお届けすることだろうと考えています。
さあ、それを6月にこの京都でやるとなった時に、やっぱり1つのジャンルだけをやるのは寂しいですよね。ですので踊りもあれば、沖縄芝居もあり、組踊もある。その時には必ず三線という楽器がある。三線を弾く人は必ず沖縄の発声と発音で歌を歌う。この三線には箏 (こと) が付き物ですし、他にも胡弓 (クーチョー) や笛に加え、沖縄独自の楽器もあります。それらをどれだけ見せ切れるかが私たちの仕事じゃないかなと思っています。ですから 京都の方に1つでも2つでも多く古い沖縄を感じていただきたい、知っていただきたいですね。
先ほど私は、ここ(京都)は実家に戻った気持になると話しましたけれども、もうすでにここが第2の沖縄なのかもしれません。棚原先生いかがですか。

棚原 沖縄の芸能は心の拠り所そのものだなと思っています。沖縄の芸能を考えた時、沖縄の人はとても歌を大切にしているんですね。そこでは島の豊穣や共同体から生まれる優しさや精神性を歌ったりしています。そして琉歌 (りゅうか)※ という沖縄独自の歌ができ、それは単独でも深く味わうことができますが、三線と結びつくことで三線音楽というジャンルができ、そこから演劇性をもった組踊や舞踊、沖縄芝居へと広がっていくんですね。そういった人々の心のよりどころが形になったものが沖縄の芸能かなと思います。

※琉歌=八・八・八・六を基本形式とする個人の感慨などの心情を表現する抒情短詩。和歌(短歌)に対してこう呼ばれる。琉球王府の貴族や士族の間では三線にのせて歌うことも多く行われた。

京都で沖縄の芸能をやる意義としては、かつて沖縄は琉球王国と呼ばれた古い都があり、京都も平安京をはじめ都が置かれていたという共通点があります。時の権力者というのは、例えばお城などを芸術の力で彩って権威として示すわけですが、そういった芸術で文化レベルの高さや国力を発信するのは、なんかすごくいいなって思います。
今日、京都芸術大学へは京都駅から車で来たのですが、窓の外に見えた建築がすごく綺麗だなと思ったんです。それを見ながら逆に首里城の瓦はなんで赤色なのかとか、どういったとこに魅力があるのかと考えたわけですが、異なった文化を見ることで改めて自らの文化を振り返るところにも意義があるなと思っています。それはお客さんにとっても我々、出演者にとっても意義のあることかなと思います。

高井 実は私は神奈川県の出身で、沖縄に住んでしばらく経つのですが、とても沖縄の伝統芸能に驚かされましたし、心を支えられました。例えば能・狂言のシテ方は歌舞伎をやりませんよね。でも組踊の役者は沖縄芝居もやるし、しっかり舞踊もやります。組踊だけ、沖縄芝居だけ、琉球舞踊だけじゃないんですね。こういうことにも驚かされました。そして沖縄の人は芸能が心を豊かにしてくれることを知っているなと日々、実感します。ちょっと歩けば三線の音が聞こえますしね。本当に文化力が高いなと感じます。
京都はコロナ禍でも真っ先に芸術支援が行われていましたし、文化庁も移転してきています。そういった意味でも芸術やアートに心を寄せる人が多い土地なのだろうと思っています。そのような地で沖縄の芸能を観ていただけるのは嬉しいですし、観ていただいて「なんか今日は良い日になったな」と思っていただけるような、そんな時間になれたら本当に素晴らしいなと思います。

 

伝統を次世代へ繋げていくこと

— 京都芸術劇場 春秋座は京都芸術大学の中にあり、学内には様々な芸術を学ぶ学生がおりますし、舞台芸術学科の中には舞台芸能の担い手を志す学生もいます。
国立劇場おきなわでも長年、組踊研修 を開催し、若い世代への組踊の継承、琉球芸能の継承、次世代の育成に取り組んでいらっしゃいます。みなさまの研修を終了されたご経験から、これから伝統芸能の世界、あるいは舞台芸術の世界を目指す若い世代にメッセージをいただけますでしょうか。

※組踊研修=国立劇場おきなわが組踊の後継者を養成するため行っている研修制度。研修期間は3カ年。実技の他にも伝承者としての知識と素養を身に付けるため、琉球芸能史や琉球方言等に関する講義研修、地域芸能鑑賞、歌舞伎・能・文楽鑑賞等の実習も行っている。

金城 国立劇場おきなわの組踊研修は開場の翌年、2005年から始まりました。私は一期生なのですが、その時にいらした三線、胡弓、太鼓、そして立方の先生方のほとんどが天国へ行ってしまわれました。今、お元気な方はお2人ぐらいしかいらっしゃいません。私は立方を勉強していましたが、音楽の先生方からもいろんなアドバイスをいただきました。というのも音楽を担当している先生方は立方の演技を見て、聞いている時間が誰よりも多いということなんですね。ですので、若い世代の方たちに私はぜひこの音楽の先生から教えられたことを伝えていきたいと思います。そして沖縄の音楽、特に古い音楽を大事にして、音楽を専門にやっている方から音に関すること、例えば「となえ」などについて何かしら意見を伺ってみるとか、どんどん接してほしいなと思っています。こういうことが、後のいろんな場面で役に立つと思いますし、研修が修了して次のステップに進む時の足掛りになると思います。階段を1段、2段とどんどん登っていくには、そういった努力を惜しまずに精進してほしいなと思っています。

棚原 私は研修を修了して、ようやく7年ぐらい経ちました。 今、思うのは、すごく貴重な経験をさせていただいたなと思っています。そこでは実技だけでなく、舞台は舞台美術さん、監督さん、音響さん、照明さんなど色々な方に支えられてできているということも学びました。
若い世代へのアドバイス、メッセージとしては自分の「道」を見つけてほしいなと思います。日本の伝統は茶道や武士道など「道」という言葉がよく出てくると思うんです。私たちの道は「芸道」と言いますが、そういう「道」の中に、芸を極める過程やプロセス、稽古を通して昔のことを考える、内面を磨くことなどが集約されていると思います。ですから色々なものに接し、吸収して、自分の足で自分の道を切り開いていってほしいと思っています。自分の道とそこで学ぶものを大切にしてほしいなと思います。

高井 研修の時に本当に大事にしていたのは、技を学ぶことと共に先生方や先輩方の想いや経験を伺うこと。そういうものが実は技と同じぐらい、時には技よりも大事な時があるかもしれないと思っていました。その時に伺った想いとか、どうしてこのような作品が生まれたのか、どういう風に継がれてきたのか、それにどう向き合ってきたのかというお話が、今、自分の中で財産になっていて、それがあるからこそ技も磨けるんです。
芸能を学ぶということは歴史を学ぶことですし、その先人の想いを学ぶこと。実は技だけじゃなくて、そういった側面が私たちのやっている伝統芸能には大事なのかなと。むしろ、だからこそ伝統芸能なのかなと思っている次第でおりまして。そんなところを大切にしていただきたいなと思うところです。