橋本裕介・編著 『芸術を誰が支えるのか
ーアメリカ文化政策の生態系』
アートの “これから” に関心のあるすべての人たちへ
国際舞台芸術祭のプログラム・ディレクターを10年務めた著者が問う――
パンデミックを経験した2020年代以降のアートはいったい誰が、どのように支えていけばよいのか?
本書は、KYOTO EXPERIMENT(京都国際舞台芸術祭)の初代プログラム・ディレクターを10年間務めた舞台制作者の 橋本裕介氏 が、2021-22年にかけてニューヨークに滞在し、アメリカ合衆国の舞台芸術、とりわけファンドレイジング(資金調達)のシステムについて行った調査がもとになっています。
まず、橋本氏が日本での経験――2016年以降は公立劇場ロームシアター京都のプログラム・ディレクターも兼務――の後、なぜアメリカを研修先に選んだのかをめぐり、橋本氏自身が感じた、これまでの日本における文化政策の問題点について論じています(第1章)。ついで、橋本氏がニューヨークで直接インタビューした芸術団体、助成財団、中間支援組織の関係者の“生の声”を伝えたのち(第2~4章)、あらためて、日本におけるこれからの文化政策を更新するための論点を、アートマネジメントの第一人者のパネリストとともに議論し、問題提起しています。
「あいちトリエンナーレ2019」で起こった問題は、私たちにあらためて公的助成金の意味について考えさせる大きなきっかけとなりました。
そして、COVID-19によるパンデミックは、「アートそのものの意義と存続可能性」について、さまざまな動きを誘発しました。
舞台芸術、ひいてはアート全般を支えるには、何らかの資金が必要です。
その資金は、誰が、どんな理由で提供するのか?
その資金は、どうやって、本当に届くべきアーティストに届けることができるのか?
本書は、そうした問いに関心のあるすべての人に向けられています。
――この分野を知りたい初心者の読者のための〈用語解説〉・〈註〉も充実!
本書は、2020年より刊行してきた機関誌『舞台芸術』の延長上に実現した企画です。なんども寄稿いただいていた橋本さんから、アメリカ合衆国、とくにニューヨークの芸術におけるファンドレイジング事情について、本誌で何か大きく取り上げられないかという趣旨の提案を最初に受けてから、もうずいぶん時間が経ちました。議論を重ねた末、構想と分量の点から、通常の雑誌よりも書籍のほうがふさわしいという結論に至り、このような形になりました。「これからの芸術を誰が、どのように支えていくのか」──この問いこそは、橋本さんと私たちとがまさにそうであったように、多くの現在の、そして未来の読者の皆さんと共有できるものと確信しています。
(京都芸術大学舞台芸術研究センター/『舞台芸術』編集部一同)
【お詫びと訂正】
本書において下記の通り誤りがございました。
P357 片山正夫氏プロフィール
最後の行 (誤)ンシスコ国際芸術祭にも尽力。戯曲翻訳も手がける。 → (正)不要
大変ご迷惑をおかけしました。ここに深くお詫びし、訂正させていただきます。
P351 『舞台芸術』編集部一同からのコメント
(誤) 本書は、2020年より刊行してきた機関誌『舞台芸術』の延長上に
↓
(正) 本書は、2002年より刊行してきた機関誌『舞台芸術』の延長上に
【立ち読み】
【目次】
はじめに
第1章─京都/日本/アメリカ
①なぜアメリカの文化政策なのか
「あいちトリエンナーレ2019」問題/一般市民と芸術界のギャップ/「文化戦争」以後のアメリカが見せた復元力
②日本の文化政策における諸問題——私自身の経験から
助成金は「甘え」か/アーティストの主体性と文化政策の関係〜京都市の場合/1990年代後半の全国的な動き/京都の文化状況の変化/「非営利の劇場」に可能な創造活動とは?/フェスティバル、東日本大震災、東京オリンピック/KYOTO EXPERIMENTの成り立ち/観客との信頼関係/ロームシアター京都の「館長問題」/実証性が欠如している日本の文化政策/パンデミックへの対応/公的資金を配分する「根拠」についての議論の不足
第2章 どのように資金調達するのか ── アメリカの芸術団体の生存本能
【総論】 伝統的なセオリーと新たな手段の開拓 ── 社会の変化と共に
【レポート】 資金調達の王道 ──メトロポリタン・オペラの事例
【インタビュー】
ブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージック/カレン・ブルックス・ホプキンス(名誉総裁)
アポロシアター/ドナ・リーバーマン(チーフ・ディベロップメント・オフィサー)
ニューヨーク・ライブ・アーツ/デーヴ・アーチュレッタ(チーフ・デベロップメント・オフィサー)
インヴィジブル・ドッグ・アート・センター/ルシアン・ザヤン(ディレクター)
チョコレート・ファクトリー・シアター/ブライアン・ロジャース(共同創設者/芸術監督)
【論考①】塩谷陽子
アメリカの非営利法人《501(c)(3)》とは?──『非営利』の概念と仕組み、その活用様式
第3章 「資金を提供する」ための思想 ── 連邦政府と民間助成財団の葛藤
【総論】なぜ芸術に資金を投じるのか ── その理想主義と功利主義
【インタビュー】
ドリス・デューク慈善財団/モウリーン・ナイトン(チーフ・プログラム・オフィサー)
全米芸術基金/マイケル・オルロフ(州・地域・地方および国際活動担当ディレクター)
ブルームバーグ・フィランソロピーズ/ケイト・レヴィン(芸術部門)
アンドリュー・Wメロン財団/スーザン・フェダー(元プログラム・オフィサー)
【論考②】片山泰輔
アメリカの寄付文化と税制度について~分権的な「小さな政府」そして地域の政策主体
【論考③】吉田恭子
米国非営利アーツセクターにおけるDEAI~サンフランシスコからの視点
第4章「再配分(リ・グラント)」による支援の最大化/効率化
──「中間支援組織(インターメディアリー)」が果たす役割
【総論】アーティストの存在そのものを尊重する支援 ── アーティスト・リリーフ、ベーシックインカムの背景
【インタビュー】
クリエイティブ・キャピタル/クリスティン・クアン(代表取締役社長)
マップ・ファンド/ローレン・スローン(助成・リサーチ部門ディレクター)
ナショナル・パフォーマンス・ネットワーク/ケイトリン・ストロコッシュ(代表取締役社長)
【論考④】小崎哲哉
「文化戦争」とは何か ── 表現の自由をめぐって
【論考⑤】作田知樹
コロナ危機におけるアメリカの芸術支援の概況
第5章 アメリカの「生態系」から日本を顧みる
【総論】提言・これからの日本の文化政策を構想するために
「上からのデザイン」と「草の根的なボトムアップ」/日本で真の意味での中間支援組織を確立させるには/提言・手始めに着手すべきこと三つのポイント
座談会 何から手をつけるか ──日本の文化政策を更新するための論点────
片山正夫、吉本光宏、荻原康子 司会:橋本裕介
【用語解説】 高田香織
【橋本裕介関連テキスト】 —こちらも併せてお読みください
・『舞台芸術』25
エッセイ 誰がニューヨークで舞台芸術を支えているのか?―「中間支援組織」の存在
・『舞台芸術』24
橋本裕介インタビュー KYOTO EXPERIMENTの10年を振り返って
・『舞台芸術』19
講義 世界の舞台芸術フェスティバル ―KYOTO EXPERIMENTの背景として
・『舞台芸術』16
エッセイ 「国際舞台芸術祭」の現場から
『舞台芸術』とは
2002年~2022年まで刊行された舞台芸術研究センター機関誌。京都芸術劇場で行われる舞台芸術研究センター主催の実験公演や研究活動を報告する場であり、そのプロセスを公開する役割も担ってきました。毎号特集を設け、古今東西のパフォーミング・アーツを今日的な視点で切り取り、21世紀における舞台芸術の新たな可能性について考察しています。
責任編集
第一期(1~10) 太田省吾・鴻英良
第二期(11~15) 渡邊守章・八角聡仁・内野儀・森山直人・酒井徹
第三期 (15~25)浅田彰・天野文雄(19号より)・小崎哲哉(22号より)・森山直人・八角聡仁